言葉を学ぶ時にも、教える時にも辞書は欠かせません。辞書と言えば『広辞苑』、『大辞林』のような分厚いものから三省堂の『新明解国語辞典』のように携帯できるものまで、形は様々です。『日本国語大辞典』という全14巻の大著もあれば、最近ではネット辞書しか使わないという人もいるでしょう。では現役の日本語教師の方々は実際にどのような辞書を使っているのでしょうか。また日本語教育に必須の辞書というのはあるのでしょうか。現役教師のお勧めの辞書をご紹介します。
今は便利さと語彙数の多さから電子版が人気です!
かつての日本語教師は、自宅に大型本の辞書を、そして学校へは携帯版を持って行くという方が多かったのではないかと思います。その後、カシオなどの電子辞書へと人気は移ります。国語辞典だけでなく英和・和英辞典も入っていたり、発音も聞けたりと便利でしたね。しかし現在ではスマホの普及から、スマホにダウンロードできる電子版の辞書を使っている方が多いようです。言葉や発音を調べられるインターネットのサイトもありますので、こちらも併せてご紹介します。
大辞林 第四版
- 編者:松村明
- 出版社:三省堂
- 本体価格:9,000円
多くの日本語教師の方が名前を挙げたのが、この『大辞林』です。書籍版の第四版は3,200ページ、25万1,000項目収録。購入するとスマホで利用できるアプリ「ことまな大辞林」がついてきます。
この他、『大辞林』をスマホやPCで利用するにはいくつか方法があります。
- App StoreやGoogle Play Storeで大辞林のアプリを購入する。いくつかの会社からアプリが出ていますのでチェックしてみてください。金額は版によって違いますが、2,600円~4,300円程度です。「辞書by物書堂」というアプリの中にも大辞林があります。こちらはアプリ内で必要な辞書を購入するシステムですが、複数の辞書を一括で検索できる利点があります(ただしiPhone、iPadのみ)。
- 三省堂の「Web Dictionary」の有料会員になる。月額250円で大辞林を含む26の辞書コンテンツが利用できます。
精選版日本国語大辞典(全3巻)
- 編者:小学館
- 出版社:小学館
- 本体価格:各15,000円
- 作者:小学館
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 大型本
『日本国語大辞典』(小学館)と言えば1972年~1976年にかけて刊行された全20巻45万項目の日本最大級の辞書です。全14巻からなる第2版も2000年~2002年にかけて刊行されました。この『日本国語大辞典』の精選版が先にご紹介した「辞書by物書堂」のアプリで購入できます。(4,800円)。また「ジャパンナレッジ」という辞書サイトに有料で会員登録すると、精選版ではなく第2版の『日本国語大辞典』がオンライン(PC・スマホとも可)で利用できるようです。
教師と学習者のための日本語文型辞典
- 編者:グループ・ジャマシイ
- 出版社:くろしお出版
- 本体価格:3,300円
こちらは日本語教師や日本語学習者向けに特化した辞典で、ほとんどの日本語学校や日本語教師の本棚にあると言ってもよい1冊だと思います。3,000を超える日本語文型の意味や用法が詳しく説明されていて、例文も豊富です。特に中級以上を教える際の授業準備には欠かせません。中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、タイ語、英語、ベトナム語の翻訳版もありますので、学習者が作文・小論文を書く際にも役立ちます。
日本語多義語学習辞典 名詞編
- 著者:荒川洋平
- 出版社:アルク
- 本体価格:2,800円
- 作者:荒川 洋平
- 発売日: 2011/11/26
- メディア: 単行本
『同名詞編』『同形容詞・副詞編』もあります。語彙を学習する時に、教科書に出てきた語の意味をその都度覚えなければならないのは大変な労力がいります。何故なら一つの意味しか持たない語というのは少なく、複数の意味を持つ場合がほとんどだからです。この辞典はそのような複数の意味を持つ語、つまり多義語をネットワーク図とイメージで学習できる画期的な辞典です。例えば「キリンは首が長い」と「会社を首になった」の「首」はどんな関係になっているの? など、楽しみながら学べます。辞典としてはもちろん、読み物としてもお勧めです。
NHK日本語発音アクセント新辞典
- 著者:NHK放送文化研究所
- 出版社:NHK出版
- 本体価格:5,000円
こちらもほとんどの日本語教育機関には1冊はあるのではないかと思う辞典です。NHKが放送現場で使用する最新のアクセントを75,000語収録したものですが、日本語教師もお世話になることが多いです。特に、アクセントに自信のない地方出身教師の心強い味方となります。聴き取り問題などの音声教材を作る際にも必携です。書籍版だけでなく、「辞書by物書堂」のアプリでも購入できます。
インターネットのサイト
紙の辞書やアプリを購入しなくても、現在ではいわゆるネット辞書と言われる辞書サイトでも、かなりのことが調べられるようになりました。「goo辞書」「Yahoo!辞書」「Weblio辞書」などです。他にも国語辞典と百科事典の要素を持った「Kotobank」というサイトもあります。ここで私が特に日本語教師の方にお勧めしたいのでは、以下の二つのサイトです。
「KOTONOHA 現代日本語書き言葉 均衡コーパス」
辞書とは違うのですが、ある言葉が実際にどのように使われているのかを知りたい時に私が利用しているのが、国立国語研究所によるこちらのサイトです。出版物として刊行された現代日本語の書き言葉のデータが1億430万語収められています。無償のオンライン版は登録不要で利用できる「小納言」と登録制の「中納言」があります。
「オンライン日本語アクセント辞書」OJAD
国立国語研究所・共同研究プロジェクト「日本語教育のためのコーパスを利用したオンライン日本語アクセント辞書の開発」(代表:峯松信明@東京大学)の成果物です。日本語教師と学習者のためのオンライン日本語アクセント辞典です。約9,000の名詞の東京方言アクセント、約3,500の用言(動詞、い形容詞、な形容詞)について基本12活用、約42,300のアクセントを調べることができます。また特筆すべきは、『できる日本語』『みんなの日本語』など教科書別に新出語彙のアクセントが調べられる点です。
「おまけ」外国人に人気の辞書アプリと辞書サイト
ここまで日本語教師の方々にお勧めの辞書を紹介してきましたが、学習者の皆さんは実際にどんな辞書を使っているのか調べてみました。学習者の多くは母語の解説がついているスマホ辞書アプリを使っています。例えば中国なら「沪江小D词典」や「MOJi辞書」、ベトナムなら「Mazii」、タイなら「JTDic」、欧米系なら「imiwa?」が人気です。そしてこれを卒業?するとGoogle翻訳に移行するようです。
また辞書サイトを見ている人もいます。
「jisho.org」は、言葉の意味だけでなく発音、例文も。また単語と漢字のJLPTレベルもわかります。アプリもあるようです。「japanese.io」は読解用のツールです。文章中のわからない単語をクリックすると読み方、意味が調べられます。「Takoboto/Japanese dictionary and Nihongo learning tool」は意味と例文、漢字がわかります。アプリもあるのでオフラインでも使えます。
これらは全て学習者に教えてもらいました。今は教師にとっても学習者にとってもたくさんの選択肢があるので、そこから自分に適した辞書を探せる時代です。うまく活用していきましょう。
仲山淳子/執筆
日本語教師歴30年のフリーランス日本語教師。非常勤講師として長きにわたり留学生への日本語指導や日本語教師養成講座に携わったのち、フリーランスに転身。現在は企業研修やプライベートでの日本語指導だけでなく、日本語ボランティア教師養成講座の講師、e-ラーニング教材の開発等、多方面で活躍中。
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