検索関連結果

全ての検索結果 (0)
50カ国・地域の日本語学習者に発信するYouTuberあっきーさんの活動

YouTubeは世界中に約20億人の視聴者がいるといわれています。音楽、商品紹介、生活情報などさまざまなジャンルがありますが、大学受験、資格、語学などの教育系のコンテンツも充実しています。今回は、「三本塾」というチャンネルを運営する、日本語教師YouTuberあっきーさんの活動をご紹介します。(NJ編集部)

トピック選びもモチベーションも視聴者の声援が頼り

www.youtube.com

「ちゃっす!」

三本塾は、あっきーさんのいつもの挨拶から始まります。視聴者にとっては、今日のレッスンの始まりを告げるチャイムのようなものです。

三本塾は日本語学習者向けのチャンネルです。内容は、初級~上級の4レベルに分かれた文法解説、リスニング、漢字など。毎回、学習者の関心のありそうなトピックを決め、5分程度のコンパクトな動画にまとめて配信しています。特筆すべきは世界50カ国以上の国・地域から寄せられるコメント。ビデオのコメント欄は英語や一生懸命に書かれた日本語で記された感謝の声や新たなビデオのリクエストであふれています。

「視聴者からのコメントには全部目を通しています。コメントを読んで、隠れたニーズに気付かされることも多くて、視聴者のリクエストに応じてビデオを作ることもよくあります」と、あっきーさんは、視聴者の声の大切さを強調します。

1回の動画の制作は、企画から撮影、編集、アップするまで約10時間はかかるとのこと。あっきーさんの本業は日本語教師なので、更新は週1回程度に抑えています。ビデオの企画は教案を書くこと、撮影は教室での授業そのものにも通じます。教室での授業と大きく違うのは、良くも悪くもダイレクトに相手からの反応が返ってくるところ。レッスンの良し悪しが視聴回数やライクの数(評価)、コメントの内容に大きく影響します。そういった厳しい環境に身を置くことが教師としての成長に繋がります。

紆余曲折の道のりから生まれた日本語教師YouTuber

あっきーさんのYouTuberになるまでの半生について聞いてみました。

あっきーさんは高校生の頃は、日本語よりも英語や国際関係のことを大学で学びたいと思っていたそうです。ところが、大学受験で唯一合格したのが国語(日本語)の学部でした。4年間大学に通って、文学はあまり好きになれなかったけれど、日本語学や言語学の面白さにはまり、日本語教師という職業があることも初めて知りました。

ただ、卒業後に日本語教師で生計を立てられるか不安だったあっきーさんは、アメリカの大学で学びながら日本語が教えられるというプログラムに応募。ところが渡米直前に体調を崩して突然の入院。止むなく参加を諦めて、日本語学校で教えながら日本の大学院へ通う道を選びました。大学院を修了してからは、大学、日本語学校、専門学校、日本語教師養成講座などさまざまな教育機関で教えたり、研究したりして、日本語教育の経験を積みました。

三本塾を始めたのは大学院を修了したときからですから、今から2年半ほど前のことです。日本語を教えるだけではなく、他の人と違うやり方にチャレンジしたかったというのがあるそうです。今、地球規模で日本語教育を考えた時に大きな問題になっているのは、世界中で日本語学ぶ人が増えているのに日本語教師が足りないということ。その時、YouTubeを使えば、世界中の人たちが無料で日本語を学べる機会を作り出せるのではないかとひらめきました。

日本語教育業界では孤独に感じることが多いというあっきーさん。日本語教育の世界は女性が多く、同じような境遇・年代の男性があっきーさんの周りにはあまりいませんでした。そんな中で同志とも呼べる仲間に出会ったことも三本塾を立ち上げようという決断に至った1つの要因でした。残念ながら三本塾の運営は今では一人になってしまいましたが、一緒に三本塾を立ち上げてくれた仲間に今でも感謝しているそうです。

これまでの道のりは必ずしも順風満帆ではなかったかもしれませんが、そのような経験を経てきたからこそ今の三本塾の活動があるのだと、あっきーさんは振り返ります。

Learning over Education――「教育」から「学び」へ

最後にあっきーさんに今後の抱負を聞いてみました。

「これから日本語教育ではICTの導入がどんどん進んでいくと思います。これまでになかった方法やツールを使って、世界中の人がより効果的・効率的な日本語学習ができるようになります。YouTubeに限らず、新たな形での学習支援を自ら試みることで、教師には新たな教育の形を、そして、学習者には新たな学習の形を示したいと思っています」

「私個人の目標はとにかく良い先生になることです。また、三本塾という団体に関しては『三本塾』というリアルな学校を立ち上げることが目標です。三本塾の教育理念に共感してくれる若い、熱意のある日本語の先生が集まって、よりよい授業や学習の在り方を追究し、お互いに切磋琢磨していく。そんな理想的な学校が作れたらと思います」

「「教材」で何かを学ぼうとするとき、書店でいろいろ手に取り、その中から良いものを購入しますよね?でも「先生」の場合、これができていないと思うんです。いろいろな先生の授業を見て、この先生に教わりたいと思って学校に入学するってほとんどないと思うんです。これからは、学習者がこの先生に日本語を教えてもらいたいからこの学校に入学するという選択ができるようになるべきだと思います。大学進学予備校の名物講師のような感じですね。そんなふうに先生一人一人がもっと評価されるようになれば、日本語教育全体の質の向上につながっていくのではないかと思います」

Learning over Education――「教育」から「学び」へ軸足を移していく時代の転換期にYouTubeを使って世界の学習者にダイレクトに発信を続けるあっきーさんの活躍に、今後も大いに注目したいと思います。

→三本塾はこちらから

https://www.youtube.com/channel/UC0ujXryUUwILURRKt9Eh7Nw

→あっきーさんがアルクを訪問してくれました。編集部員も声で出演


日本語教材の出版社「アルク」に行ってきた!/Visiting a Japanese Textbook Publisher "ALC"!

→後編では、アルクの教材も紹介してくれました。


アルクの教材紹介!/Japanese Textbooks to Check Out!

→三本塾に関するご意見、ご質問は三本塾のツイッター、フェイスブックまで。現在、スタッフも募集中

https://twitter.com/sambonjuku

https://www.facebook.com/SambonJuku/

関連記事


ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(1)

ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(1)
国内の小中学校では外国籍、外国にルーツを持つ子どもたちが増え続けています。子どもたちへの日本語教育の重要性がようやく注目され、母語・母文化継承についても少しずつ認識されるようになってきました。

木村宗男と平和のための日本語教育

木村宗男と平和のための日本語教育
2024年4月より日本語教育機関認定法が施行され国家資格「登録日本語教員」制度が開始されます。戦後の日本語教育の歩みの中でも大きな転換点をむかえ、とりわけ、日本語教員養成は新たなフェーズに入ったと言えるでしょう。一方で、現代の地球社会には、環境や災害、紛争、感染症など、多くの危機的な問題が横たわっていて、日本語教育や日本語教師に求められる役割を広い視野で考えることも求められています。今回は、戦中・戦後に日本語教育に従事し、日本語教育学会の設立や教員養成に寄与した木村宗男に着目し、その活動と志向された平和のための日本語教育をご紹介します。