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北海道 ナゼここに? 新しいコミュニティ(北海道地域日本語教育シンポジウム)
2025年1月25日に第4回を迎えるSHAKEHOKKAIDO主催の北海道地域日本語教育シンポジウム。今回は、コミュニティをテーマにした内容です。今後、外国人の定住化が進むことが予測される全国の地域社会にとっても興味深いテーマ。企画者である平田未季さん(北海道大学)にシンポジウムの背景について、おうかがいしました。前編・後編でお届けします。(深江新太郎/多文化共生プロジェクト)

今、なぜコミュニティか?

ーーさて平田さん、なぜ、今、コミュニティに着目したシンポジウムを企画なさったのでしょうか。

北海道は、ずっと非集住地域と呼ばれてきたんです。国の取り組みって、これまで外国人が集住していた地域からの突き上げによって始まった側面があると思うのですが、北海道は国の指針が固まった後に、道主導で各地域に落としましょうというトップダウンの雰囲気があると感じています。それは北海道では、外国人の増加が2010年以降の技能実習生の受け入れにより始まった比較的新しい現象であるからです。そのため、道の取り組みも基本的には技能実習や特定技能の方を向いています。

ただ、今、全く新しいことが起き始めていて、それは非集住地域であった北海道に外国人が集住しているところができはじめているんです。これらの場所では、同じ地域出身の人たちが家族を連れて来られる在留資格で来日し住んでいるんですが、それが都市部でないので、非常に目立つんです。

ーー家族を帯同している人たちが集まり、そこにコミュニティが生まれているのですね。

はい、この状況をぜひ北海道の人達に知ってほしいと思っています。なぜなら、これまで北海道の外国人の増加は技能実習、特定技能、つまり労働者の増加だったのですが、これが育成就労制度に移行し、特定技能への接続がよりスムーズになったとき、家族帯同が可能な特定技能2号が増え、各地域に一気にコミュニティが形成される可能性があります。

つまり、働いている人だけが会社の人と関わるという今の状況ではなくなってくるのです。そうすると、今回取り上げる浦河町、江別市という2つの事例は北海道の先行的な事例になってくるのではと思います。

浦河町に急増したインドの人達

 

ーーでは、まず浦河町の状況について、教えてください。

浦河町は、競走馬育成が主産業の地域です。馬がのびのび生きています。浦河町のいたるところに「馬優先」という表示が見られます(笑)。馬が横切るときには止まってください、みたいな。一頭で一億することもあるから、傷つけたら大問題という感じで。その馬を競走馬として育てたり調教したりする技能を持った外国人を労働者として受け入れています。

ーーどの国の方ですか。

インドや南アフリカなど、イギリスの植民地だった地域が多いです。今、浦河町の人口の約4%が外国人で、その大半をインドの人が占めています。インドの人たちは浦河町の主産業である競走馬育成に欠かせない労働者なので、町役場も彼らの定着や住民との交流を積極的に支援しています。だから今回登壇される方もほとんどが役場関係の方です。

ーー浦河町は日本語教室があるんですか。

定期的に開催される教室はないです。今回のシンポジウムの共催であるキャリアバンク株式会社が一度教室を開いたことがあり、また、今年の9月には私が大学院生や北大で日本語教育に関わる方と一緒に女性に向けた教室を2日間やりましたが、それだけです。

ーー日本語教室がない理由は何でしょうか。

教育のリソースがないことと移動の難しさかなと思います。移動について、私もここで教室を2日間やって分かったんですが、浦河町は山と海の街で、牧場は町の周辺部に点、点と存在しているから、借り上げバスで送迎しないと、みんなを一か所に集めるのは無理なんです。家から教室まで徒歩で移動するとなると、山を歩くしかなくなっちゃいます。

ーー隣近所、というのはあるんですか。

あるところもあれば、ないところもあります。牧場で何人か雇用されている場合、長屋みたいな従業員寮があって、寮に一緒に住んでいる人たちがお隣さんになるときもあります。でも、本当にぽつんと一つしか家がないような場所もあって、そんなところは隣近所は全くありません。

ーーその場合、家族以外の交流というのがありませんよね。

はい、コミュニティの中心である男性はそれでいいと言うかもしれませんが、女性や子どもは良くないだろうと思うんです。だから、今回、特に女性に向けた日本語教室を2日間にわたって開催したんです。

インドの女性が集まった2日間の日本語教室

 

ーー写真を見ると、けっこうたくさん来てますよね。

19人ぐらいです。

ーーこのとき、何を行ったんですか。

ほんとに大変だったんですよ(笑)。参加者はひらがな、カタカナはもちろん、ローマ字も読めなくって。日本語の知識も完全にゼロの人が半分以上でしたから、予定していた通りになかなか進まなくって。1日目は、町で日本人に会ったときに挨拶できるようになろうというのを目標に、2日目は、スーパーで買い物するときにそれぞれの宗教的な制約に基いて、自分たちで買うべき食材を見分けられるようになろうというのを目標にしました。

ーーやってみて、どうでしたか。

この写真、見てもらったら分かると思うんですが、みんな正装で来ているんです。たぶん、外出するという機会がほとんどないから、日本語教室でも、みんなちゃんと化粧して、正装して来ていて。そして、みんな、すごい楽しかったと言ってました。その理由が日本語なのか、そもそも人と会ったり、集まったりする機会がないからこうして集まれたことが嬉しいのか、どっちかは分からないんですが。1日目は予定していた内容が思うように進まず、みんな2日目も来るかどうかハラハラしていたんですが、2日目は1日目より人が増えて、アンケート結果も良くて、本当にほっとしました。

ーー特に印象に残っているエピソードがありますか。

この教室を企画したのは院生や北大で日本語教育に関わる方たちなんですが、せっかく浦河まで行くので、1回目の授業が終わったら気分転換に浦河を観光しよう言っていたんです。でも、1回目の授業が思うようにいかなくて、これは準備しなおさないとだめじゃないかってなって、観光を切り上げて浦河唯一のイオンに行って、インドの方たちが買いそうなのものをレアリアとして集めたんです。

そしたら、明治のチョコパイってあるじゃないですか。それがイオンに3種類あったんですけど、ミルクチョコとビターチョコとザクザクチョコっていう。で、よく成分表を見たら、このザクザクチョコパイだけ、アルコールが入ってなかったんです。こういうよく似た商品でアルコールやビーフ・ポークが入っていたりいなかったりするものを4種類ぐらい見つけました。

2日目の教室の時、これを配って、このチョコパイにはアルコールが入っているよと説明すると、みんながパニックになったんです。「これ、買っちゃったことあるよ!!」って。2日目の授業では、「これ、アルコール入ってますか」という文型を学習していたんですが、もうそれを使うどころじゃなく(笑)。チョコパイの袋を指さして「アルコール、アルコール?」ってなって。すごい切実なコミュニケーションの目的が生まれたんです。「ザクザクチョコパイはだいじょうぶだから今度からこれを買ってね」と説明してなんとか落ち着いてもらい、ザクザクの方をお持ち帰りいただきました。浦河町のイオンでザクザクが販売中止にならないといいなあと思います(笑)

むすび

インタビューの内容から、ある記事の一節を思い返しました。「現在、日本語教室がない地域で暮らす外国人は日本語が話せないから地域社会とのつながりがない」とそこには記されていました。僕が立ち止まったのは、「日本語が話せないから地域社会とのつながりがない」という因果関係です。いや、「地域社会で集まる場がないから日本語が話せない」のでは。平田さんへのインタビューを通して、あらためてこれからの地域社会に必要な日本語教室の在り方を考えました。インタビューの後編では、「コミュニティを持つ人たちにとって日本語教室は必要か」についてお届けします。インタビューの後編、そしてシンポジウムをどうぞお楽しみに。

▼第4回北海道地域日本語教育シンポジウム 北海道 ナゼここに? 新しいコミュニティ

開催日:2025125日(土)13:00-16:30

●参加無料

●オンンライン配信会場

札幌/キャリアバンク株式会社

●サテライト"対面"会場

・江別/市民交流施設ぷらっと [参加団体:江別国際センター]
・北見/北見工業大学 [参加団体:北見工業大学+いろはの会]
・帯広/JICA北海道センター(帯広) [参加団体:JICA北海道センター(帯広)]
・旭川/旭川市民国際交流センター フィール旭川7階 [参加団体:旭川JICAデスク]

お申込み:https://forms.gle/GUCh9nicJCYY4FkCA

●詳細:https://shakehokkaido.studio.site/Y1xPp5V0/symposium04

プロフィール

平田 未季(ひらた みき):北海道大学准教授。協力隊でシリア・イエメンで日本語教育にかかわったのち、秋田大学を経て現職。大学で日本語教育を行うかたわら、SHAKE★HOKKAIDOを主宰し、北海道で日本語学習支援および共生支援に関わる人たちをゆるやかにつなぐ活動を行うとともに、演劇の手法を用いた共生のまちづくりワークショップに取り組む。

執筆

深江 新太郎(ふかえ しんたろう):「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文部科学省委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

 

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