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フリーランスの日本語教師として働くー小山暁子さん3 同業者とつながるコミュニティー

フリーランス日本語教師として活躍中の小山暁子さんのコラムを全3回でお届けしていきます。『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』(アルク)の中でもフリーランスの日本語教師としての働き方をご自身の経験から惜しみなく執筆してくださいました。フリーランスで教えることは自由に働ける一方、孤独を感じる面もあります。第3回目は『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』の共著者たちとの出会い、ご自身で立ち上げた勉強会コミュニティー「サタラボ」についてです。

「同業者はライバルでない」という思いに至るまで

年齢も環境も働き方もまったく違う武田聡子さん、長崎清美さんと私の3人は2009年にNPO法人日本語教育研究所(以下、日研)が大規模な企業研修を請け負ったことで出会い、その後も公私ともに付き合いが続き、今回の本を書くに至りました。おふたりは大学などで教えながら日研の理事であり、所員でもあります。私は日研が開催するさまざまなセミナーを割引料金で受講することを目的に入会した一般会員です。コロナ禍以降は世界中の学びの場でオンライン化が進み、教師対象のセミナーや勉強会に誰でもどこからでも参加できるようになりましたが、私がフリーランスになった頃は日本語教育機関がそれぞれ非公開で独自の内部研修をしているというのが実情でした。

フリーランスになって所属がなくなり、困ったことの一つは、スキルアップする場がないということでした。当時の私にとっては、アルクや凡人社、日研の公開講座は、得難い貴重な学びの機会を作ってくれる非常にありがたいもので、できる限り参加するようにしました。その後、前述のように日研が大規模な企業研修を請け負うことになり、当時の理事長、上野田鶴子先生が以前から企業で教えていた私にお声がけくださり、研修の立ち上げメンバーとして加わることになりました。そこで出会ったのが、武田聡子さんと長崎清美さんでした。

受講者は企業の外国籍新入社員数十名、毎日就業時間の9時前から17時まで業務として日本語や日本事情、ビジネスマナーを学び、4月入社の日本人新入社員と日本語による新入社員研修に合流するということが目的のものでした。既に所員であった武田さんが所内でリーダーを務め、長崎さんと私がサブリーダーとして現場の企業研修センターに出向き、他10名ほどの日研の会員登録をしていた講師と教えるーー3人で企業へ赴き、担当者と打ち合わせを重ね、一からコースデザインし、詳細を詰め、講師の採用からキックオフまで目まぐるしい日々が続きました。

講師を担当してくださった方々も日本語学校や大学のベテラン教師の方、企業経験を経て教師になった方、マナー講師の方とさまざまな強みを持った方々に集まってもらいましたが、外国人就業者への日本語教育経験がある方は、ひとりふたりしかいなかったので、今回の学習者が学生ではなく日本語以外は高度な専門性で雇われた社員であること、講師である私たちは企業にとっては出入り業者のような立場であることなど、学校の教師との違いを理解してもらうところからスタートし、子ども扱いすることなく、社会人として、社内の同僚、先輩や上司が助けてあげたくなる新入社員になれるよう指導してもらいました。

職務として日本語を学ぶことで給料をもらっている受講者には長時間の研修後、帰宅し復習や宿題、そして毎日の小テストが課せられたのですが、それもほぼ、帰宅後、夜中まで3人で作りながら進めました。そこに度々、企業担当者からのフィードバックのお呼び出しが入り修正や調整が入ったりと、充実していましたが、とてもハードな日々でした。

この企業の研修自体は形を変えながらも何年も続いていきましたが、携わってくださった皆さんがすっかり熟練のビジネス日本語講師となり、講師チームのスクラムもバッチリとなったところで、私自身は外れ、本来のフリーランスとしての働き方に戻りました。以前のようにフリーランスとして自分の好奇心が疼く仕事を選び、ある意味マイペースで働く日々が戻りましたが、このハードな日々の中で、公私ともに長年親しくしてくれる武田さんと長崎さん、そしてチームで働いた講師仲間の皆さん、この経験をさせてくださった上野先生には心から感謝しています。

さて、フリーランスとしての働き方は自由に働けるといういい面もありますが、収入が不安定になりやすいのは事実ですし、時には孤独でストレスフルなことも多々あります。もちろん自ら好んでこの働き方を選んでいるのですが、大規模研修から抜け、自由な身に戻った数か月、心にぽっかり穴の開いたような寂しさを感じ、何かリハビリを必要とするような時期を経験しました。

フリーランスで企業研修などを請け負っていると気の知れた同僚に愚痴をこぼすこともできず、ひとりで解決しなければならないことがほとんどで、守秘義務のために悶々と悩むこともあります。体調が悪くても代講を頼む相手もいません。うるさい上司もいなければ手のかかる部下もいない、気に障る同僚もいないのですが、仕事帰りにたわいないことで笑ったり、美味しい寄り道をしたりする楽しみもないのです。

この研修に参加したことで武田さん、長崎さんや多くの日本語教師に出逢い、久しぶりに、以前学校で働いていた頃の楽しさを思い出しました。フリーランスになった頃はまだ収入も不安定で仲間のはずの日本語教師をライバル視していたように、誰にも弱みを見せられないと思っていました。それが、日研でこの研修に加わり、他の仕事でも所員の方々と働く機会をいただき、同業の友は大切だと思うようになりました。

正体不明?の勉強会コミュニティー「サタラボ」設立

そして、同業の友と所属や立場を越え、フラットに学び、高め合う場がほしいと思いました。それが、その後、2014年にスタートしたサタラボという正体不明の勉強会コミュニティーへとつながるのです。はじめは、日研や日本語教育関係の出版社などのゲスト講師をさせていただいた講座に参加できなかった方々からご要望で、数回、開催すればいいというくらいの気持ちでしたが、それが10年続いたのも事務局を務めてくれている伊藤麻友子さん、森谷智美さん、そして、会場として学校を使えるように動いてくれたり、講師を務めてくれたりする参加者の皆さん、日本語教師と出版社に勤める日本語教育を愛する人たちのおかげです。

当初は私自身が携わっているビジネス日本語に興味のある方とフリーランスになりたい方を対象の勉強会にしようと思っていましたが、参加者の方からそれ以外の人は参加できないのかと聞かれ、気づきました。私自身、最初からビジネス日本語に特化してフリーランスで働こうなんて思っていたわけではないのです。私のように巡り合わせでこの道を選ぶ人もいるでしょうし、今は教育機関で教えている人、養成講座に通っている人、副業で教えている人やボランティアで教えている人も数年後は企業で教える機会に巡り合うかもしれないし、就職した元教え子から仕事の日本語を習いたいと連絡があるかもしれません。ベテランでは気づかない日本語教育界の常識が企業人に通じないということや私が企業担当の方々との関りの中で嫌というほど味わってきた感覚のズレに気づかせてくれるのも教師経験が浅い人です。ぜひその方々には疑問を呈し、起爆剤になってほしいと思いました。

そうなると、どんな参加者にも安心して発言してもらうための安全な場作りをしなくてはなりません。そこで、サタラボでは「グランドルール」というものを作りました。それは以下のようなものです。

①「~先生」という呼び方をせず、学校での立場や経験験に関わらず、フラットな関係で学び合うこと、②InputとOutputを通し主体的に学ぶこと、③競合ではなく仲間として助け合うGIVE & GIVE の精神で、④自分の常識や先入観で凝り固まることなく、まず試してみる、⑤議論は活発に!異なる考えを頭から否定することはしない。答えはひとつではない、⑥講師を務める際、専門用語には簡単な説明をつけて話す、⑦参加者全員で成長を加速する⇒学習者やクライアントから渇望される教師へ、⑧講師としてのデビューの場、成長の場としても考え、サタラボをきっかけに、ご自身のセミナーやコミュニティー立ち上げ、教材開発などにもつなげてほしい、⑨主催講座、著書、教師募集の告知や宣伝も歓迎する、⑩ビジョンは「行列のできる日本語教師」、学習者やクライアントにとっての「Only one」この人しかいないという教師をみんなで目指そうーーです。今は、ご要望がある限り、そして、私や事務局の仲間が意義を感じて楽しくできる間は続けたいと思っていますが、あまり先のことは考えていません。

フリーランスとして大切だと考える力、三つとは

最後に、私がフリーランスとして大切だと考えることの中から、三つお伝えします。情報収集力と人とのつながり力、そして、批判的思考力です。

一つ目は、情報収集力です。仕事を見つけるところからが仕事のフリーランスは世界情勢、特に世界と日本との関りにアンテナを張り巡らせていなければなりません。次にどんな波が来るかをいち早く知ることにより、タイミングよく波に乗れるか乗れないかが決まります。今、日本語学習者が多い国ばかりではなく、次に日本語学習者が増えるのはどの国か、どの業界か、どの職種か、ヒントは見えるところに多くあります。

二つ目は、人との繋がり力です。同業種の人、異業種の人、さまざまな人とつながりましょう。異業種の人からはその業界の人でしかわからないことを多く学べますし、将来のクライアントとつなげてくれることもあるかもしれません。同業種の人からも仕事のことでお世話になるかもしれません。日本語教育に関する情報を共有し合うこともできます。互いの弱みをカバーし合い、コラボレーションすることもあるでしょう。何より分かり合えます。どちらも、まずは下心なくgive&giveの精神でいきたいものです。

三つ目は、批判的思考力、クリティカルシンキングスキルついて考えてみましょう。批判的思考とは、先入観にとらわれずに情報を客観的に論理的に考える能力です。感情や偏見、先入観に惑わされず、現実を冷静に見極める力です。これでいいのか、これが主流だからこうしなければいけないのか、もしそうしなければどうなるのか、他に方法はないのかなどと違和感を感じたら、突き詰めていくことで何か変わるものがあるはずです。授業のアイデアもここから生まれます。例を二つ紹介します。

なぜ、どの教科書でもひらがな、カタカナの順で教えるのでしょうか。この疑問から私は支障のない限り、カタカナから教えることにしています。理由は、やっとの思いで覚えたひらがなだけではストレスが多いからです。日本語の教科書を読むだけなら違うと思いますが、日本にいる学習者なら街中で多くの文字を見るはずです。昔、初めて日本語を学ぶ外国人になったつもりで1日、街を動いたことがあります。電車の中で商店街やスーパーでひらがなだけをすべて覚えたばかりの学習者になったつもりで歩いてみると、挫折感のようなストレスを感じました。すごく頑張って50もの文字を覚えたのに、理解できるものがあまりにも少なかったからです。

それまでは、ひらがなを覚えてからカタカナというように学んだ幼児体験から、ひらがなが先ということに何の疑問も感じていなかったのですが、果たして、多くのカタカナ語があふれる社会で生きる日本語学習者はどうなのだろうかと思い当たったのです。カタカナを先に覚えたら、その時点で社内でも日常使うことばがわかります。英語のわかる学習者ならちょっと発音が違っても想像がつく言葉が多く読めます。まず、店名やメニューもひらがなだけより読めるものが多く注文できます。発音が元の英語と大きく離れている言葉もクイズのようでむしろ面白く、楽しいのではないかと思いました。

なぜ、日本語教師は真っ先に方言を教えることがないのでしょうか。地方で介護士になるなら、敬語より先にその地域で生まれ育った利用者の方々の話す方言を学び、理解できるようになることのほうが使える日本語になるのではないでしょうか。あるセミナーで皆さんに聞いたら「教科書に載っていないから」「JLPTの問題に出てこないから」「学校で決まっているから」という言葉が返ってきましたが、皆さんはどうお考えですか。

正解はないと思います。ただ、当たり前のようにやってきた日々の授業を、立ち止まり、疑ってみることから生まれるアイデアや仕事もあるのではないかという問いを皆さんに託し、このコラムを締めくくりたいと思います。読んでくださった皆さんと、ぜひ、どこかでお話ししたいです。長文にお付き合いくださり、ありがとうございました。

▼セミナー「フリーランス日本語教師」として働くための初めの一歩

講師:小山暁子

スケジュール:2024年6月18日~7月11日(火曜・木曜)10:00-12:00 

参加費:全4回 14,000円(税込)

詳しくはこちらから https://nihongokyoshi-career.com/event-seminar-202406/ 

 

 

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