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ビジネス日本語の教え方と働き方ー第1回「例外が普通」、そもそもビジネス日本語ってどんなもの?

アルクの新刊書籍『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』、9月1日の発売を記念し、著者である三人の先生方に順に登場して「ビジネス日本語」について語っていただきます。第1回はNPO法人日本語教育研究所理事のお一人である長崎清美先生です。ビジネス日本語の多様性とは、どのようなものなのでしょうか。

会社員の経験がないと無理? ビジネス日本語

私の日本語教師としてのスタートは日本語学校でしたが、そこでの受講者のほとんどはいわゆるビジネスパーソンでした。当時の養成講座では、就労者への日本語指導についてあまり習った記憶がないのですが、受講者との雑談の中で聞く会社でのお悩みごとは、会社員から転職したばかりの私には、その様子が手に取るようにわかりました。それで、レッスンの中で、国や文化による考え方の違いや企業文化のようなものを取り上げ、話し合ったりしていました。当時は、あまり意識していませんでしたが、こうした経験を通して、仕事で日本語を使う人たちは、日本語が上手になればすべて解決とはいかないことに気づいたのだと思います。

現在、日本で日本人と働く外国籍社員はますます増えてきています。皆さんの周りでも実際に「働く外国人」を見かけることが多くなってきているのではないでしょうか。こうした状況を受け、「仕事で使える日本語」の需要が高まっています。今、さまざまなバックグラウンドを持った方が日本語教師として活躍していらっしゃいますが、その中には、ご自分のビジネスパーソンとしての経験を日本語教育の中で生かしたいと考えている方もいらっしゃると思います。また、学校での経験をもとにもう少し日本語教師としての幅を広げてみたいと思いつつも、自分には会社で働いた経験がないからなどの理由で、ビジネス日本語を教えることに尻込みしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな方たちの背中をちょっと押したくて今回長年、ビジネス日本語教師仲間である小山暁子さん、武田聡子さんとともに『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』を書きました。

「例外が普通」 ビジネス日本語の多様性

皆さんは「ビジネス日本語を勉強したい」と言われたら、何を教えますか。敬語?メール?電話?いやいや、仕事によって何が必要なのかは違うのではと、一言で簡単に言えないことに気づくと思います。日本語を教えたことのある方なら、同じレベル、同じテキストを使ったクラスを担当しているのに、毎回準備をしているのを家族に呆れられ、「相手が違うんだからしょうがないじゃない!」と反論した経験があるのではないでしょうか。この相手のバラエティが「半端ない」のが働く人たちです。

日本語学校で勉強する学生であれば四技能をバランスよく伸ばすことが求められると思いますが、ビジネスパーソンの場合は書くこと一つをとっても、「私は話せればいいので文字は要らない」「ひらがながわかっても日常生活で読めるものはほとんどない。身近な漢字が読めるようにまず漢字から勉強したい」など、受講者のニーズはさまざまです。また、語学学習は教師との勉強時間以外にも学習時間を持つのが常識のように思っていましたが、「仕事が忙しいので、勉強は先生との時間だけ」とはっきり宣言する人もいました。「例外が普通」を実感するのが、ビジネス日本語とも言えるのです。

私たち著者三人は、長きにわたり、実際の現場で数多くの研修に携わってきました。セミナーなどで実際にお会いして、参加者の皆さんの実情にあったお話をすることはできるのですが、文字化するとなると、バラエティが多すぎて、一つ一つの事例を挙げていては百科事典並みの本ができてしまいます。そこで、本書では、私たちがどんな研修をするときも大切にしている「いい人間関係を築くための日本語」をキーワードにして、皆さんの手に乗るサイズの本にまとめました。なぜ、いい人間関係作りが大切なのか、いい人間関係を作るためにはどんな日本語が必要なのか、それらをどんな工夫をして教えればいいのかを紹介しています。

ビジネス日本語を教えるためにこれだけは知っておこう

私たちのさまざな経験をもとに執筆した『ビジネス日本語 教え方&働き方ガイド』は「基礎編」と「実践編」の二部構成になっています。「基礎編」では、ビジネス日本語の世界に足を踏み出そうと思っている皆さんに知っておいていただきたいことをまとめました。特に4章、5章では、実際に教えることになったら必ず必要となる「評価」と「日本語教材」について、私たちの経験をもとにまとめました。

「4 ビジネス日本語研修の評価」には、私たちが作成したオリジナルの評価基準、インタビューの質問項目例、さらに、企業へ提出する個人カルテなど、私たちが実際の研修で使用しているフォームなどを載せてあります。皆さんが実際に研修を担当することになった際の参考にしていただければと思っています。

「5 ビジネス日本語教材」では、私たちが愛用している多くのビジネス日本語テキストの中からいくつかを紹介しています。紹介したいテキストが多過ぎて、本書に載せるテキストを選ぶのには大変苦労しました。教材は、どんどん新しいものが出版されますので、ウェブ上にビジネス日本語に関する教材リストをアップし、最新情報が見ていただけるようにしてあります。ご活用ください。

あなたも一歩を踏み出そう!

私が日本語教師としてのキャリアをスタートさせてすぐ、当時の勤務校が韓国の大手半導体メーカーの長期日本語研修を受注しました。このとき、私は初めて、コースデザインや見積書の作成、また、企業とのやりとりを経験しました。会社員を辞めて日本語教師になったのですが、取引先と話し合いを重ねて研修を作り上げていく作業は、会社員時代に戻ったように感じたのを覚えています。ビジネス日本語を教える教師自身がビジネスパーソンである自覚を持つことの大切さを感じた経験でした。しかし、ビジネス日本語を教えるためには必ずしも会社員の経験が必要というわけではなく、多様なニーズに対応するためにあらゆる経験が役に立つのがビジネス日本語の面白さでもあると思います。

みなさんもまずはビジネス日本語の現状、その多様性を知ることから始めてみませんか。最初の一歩を踏み出したい人、また、一歩踏み出したけれども、二歩目をどうすればいいか悩んでいる方に、本書がお役に立てればうれしく思います。

【著者プロフィール】

長崎清美(ながさききよみ):鉄鋼メーカー会社員を経て日本語教師に転職。地域日本語教室、日本語学校、海外での日本語教育、教師養成、外国人児童向け教材開発などに携わる。現在はNPO法人日本語教育研究所理事・研究員、大学非常勤講師として企業における日本語研修のコーディネート、留学生の就職活動のサポートを中心に活動中。

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