3月2日の日本語ジャーナルでご紹介した韓国人学生キムヒョンミンさんが通っている日立さくら日本語学校は、地域との交流も盛んです。2023年2月には支援してくださる方々を招待して留学生の学習成果発表会が行われたそうです。日立さくら日本語学校の取り組みについて校長の松浦みゆき先生、日立市文化・国際課武内さんにお話を伺いました。地域の日本語学校の在り方についてヒントが見えてくるのではないでしょうか。
日本語ボランティアの方に日本語学校での活動をお願いする
――今日はお忙しいところお時間をお取りいただきまして、ありがとうございます。
日立市は以前から外国人住民の方との交流に力を入れていたのでしょうか。
武内:はい、日立国際交流協議会という団体がありまして、アメリカ・バーミングハム市との姉妹都市交流が始まったのをきっかけに国際交流や外国人市民の支援などを行ってきました。その事務局を市の文化・国際課が兼ねています。2023年2月末現在で市内には47か国1511人の外国人市民がいます。
――日立さくら日本語学校と文化・国際課の繋がりはどういったところからだったのでしょうか。
松浦:私個人が別の学校にいた時から日立国際交流協議会主催の日本語ボランティア養成講座の講師を務めたのが最初の繋がりです。その後、2019年に私が日立市にある日立さくら日本語学校に移ってきたことで、さくら日本語学校と市の文化・国際課で連携することができるようになりました。
武内:日立市には現在熱心に活動されている3つの日本語ボランティア団体があるのですが、松浦先生には日本語ボランティア養成講座や研修の講師をお願いしています。ボランティア団体の代表者と市の担当者との意見交換の場である日本語グループ会議にも出席いただいています。
松浦:実は日本語ボランティア養成講座を修了しても、すぐに毎週活動するのは時間が…という方もいらっしゃるんですね。せっかく講座を受けたのにそれを活かさないのはもったいないので日本語学校と繋がっておいて、例えば学生が市役所に行きたいという時に付いて行ってもらったり、非漢字圏の学生の漢字の補習をお手伝いしてもらったりということをお願いしています。
――定期的な活動ではなくて、スポットで、ということですね。
松浦:そうですね。他には願書の書き方をサポートしてもらったり、面接の練習をお手伝いいただいたりしています。会社の人事課にいた方もいらっしゃいますし、学生も私たち日本語教師相手に話すより、実際の面接に近いので練習になるんです。
留学生と住民との交流
――以前松浦さんにインタビューさせていただいた時、学生さんが筍掘りをしたという話が印象に残っているのですが、あれも市からのお知らせか何かだったのでしょうか。
松浦:いいえ、あれは私の知り合いがSNSで発信していたのを見つけて、学生に紹介したんです。この地域も高齢化が進み、竹林を手入れする人がいなくて困っていると。お墓にまで筍が生えてきたという話もあったり。ベトナムの学生なんか筍が大好きですから喜んで行きました。他には柿の実や梅の実をもいだり、粗大ごみを出すお手伝いをしたりもありますね。
学生が市の中学校の消毒のお手伝いしたこともありました。コロナ禍で学校の教室の消毒が必要になり、その手伝いを市で募集していたので、留学生でもいいですか?と聞いて。
――留学生と地域の方の距離がとても近いように感じますね。
松浦:そうですね。でも、日立さくら日本語学校ができた当初は、急に街に外国人が増えたので、やっぱり集まっているだけで怪しいと思われたり、苦情とまではいかないけれどそういうのがあったと聞いて。学生と地域の方が交流していく中で、「あ、あそこの学生さんだね」と知ってもらうことで関係も良くなっていくと思うんです。知らない人が出している音は騒音だけど、あそこのネパールの○○さん、今日はお祭りなんだねと分かれば受け取り方も柔らかくなるんじゃないかと。
――そのような活動に関して学生さんの感想はいかがですか。
松浦:そうですね。卒業時に思い出として日本人の皆さんとの交流を挙げる学生が多いので、印象に残っているのだと思います。
――市のほうでも外国人と地域の方が交流できるようなイベントってされているんですか。
武内:コロナ禍で中止している活動もありますが、外国人市民の方の生活のために浄水場などの施設見学会、スポーツ大会、外国人向け無料相談会などがあります。
松浦:ラジオ体操もありますよね!ラジオ体操って日立市が発祥なんですよ。それでうちの学校からも参加して3位のメダルをもらいました。ベトナムの学生はアオザイを着て参加しましたよ。
武内:市の方で外国人の皆さんに集まってもらうイベントをしたい!となったら、まず、さくら日本語学校さんに相談します。
国際交流事業の一環としての学習成果発表会
――2月に行われた学習成果発表会について教えてください。
松浦:いつも支援をしていただいている皆さんに、学生たちがどんな風に成長したかを見せるのが一番のお礼になるかと思い実施しました。
――支援というのはどのようなものでしょうか。
松浦:先ほどお話ししたボランティアの方々もそうですし、フードバンクからお米などの食料も寄付していただいたり、他にはいらなくなった食器だとか、冬の暖かい衣料品などを寄付してくださる方もいます。野菜が採れすぎたからと言って持ってきてくださる方も。
ですから、日ごろお世話になっているボランティアの方々、学生のアルバイト先の会社の方、市役所の方々、大学の先生などにお声掛けしてご出席いただきました。
大学は教育実習生を日立さくら日本語学校で受け入れている縁などもあるのですが、ひたち国際文化まつりの際に、日本人学生がリーダーになって、留学生とグループを作り一緒に回ってくれたんです。学生達だけだったらうまく回れなかったと思うので、本当に有難いです。
――会場はどちらで?
松浦:学校とは別の大きな会場を貸していただきました。
武内:国際交流事業の一環としての位置づけでした。
松浦:卒業する学生を中心に半数の学生が参加して、自分の国の紹介や歌、1分スピーチなどを行いました。学生たちは「いい経験になった」「自信がついた」と言っています。今回参加しなかった1年目の学生は、自分たちも来年はあれをやるんだ!という励みになったようです。
出席してくださった方からも、「日本にきて、こんなに頑張っているんだ」と前向きなコメントをいただきました。
日本語学校がコーディネーターの役割を
――お話を伺っていると、日本語学校とボランティア団体、そして行政との連携がとてもうまくいっているように思えるのですが、何か秘訣はあるのでしょうか。
武内:先ほども言いましたが、ボランティア団体の代表者と松浦先生と市の担当者で3か月に1回、日本語グループ会議というのを行っています。もともと日本語ボランティアの皆さんの意見交換の場として発足したものですが、そこでいろいろと声をあげてもらうことで形になるものもあります。
――集まる場所があるのはいいですね。日本語学校関係者もそういう場所があれば顔を出すことが必要ですね。他に何か連携の例がありますか。
武内:現在、市のほうで、やさしい日本語を活用して「外国人のための日立市生活ガイドブック」を作っているのですが、茨城キリスト教大学の学生さんと市が翻訳したものを、日立さくら日本語学校の留学生に見てもらっています。外国人の目線で本当に分かりやすいかどうかをチェックしてもらっているんです。
――松浦さんは以前のインタビューで、日本語学校が地域の日本語教育のプラットフォームになれたらとおっしゃっていましたね。
松浦:ええ。私は地域の日本語学校が介護サービスにおける包括支援センターみたいな役割ができたらいいなと思っているんです。コーディネーターと言いますか。日本語学校には外国人の生活面をサポートできるスタッフもいますし、コースデザインができる日本語教育の専門家もいます。
日本語のことや外国人のことで分からないことや相談があったら、日本語学校へ行けばいいよというようになればいいなと思います。日本語学校が社会的に認められて安定した職場になれば、若い人がキャリアとして日本語教師という職業を選択できると思うんです。
――今後目指すところについて教えてください。
武内:日立市はボランティアの皆さんの熱量がすごくて、ボランティアの方々なしにはこれらの事業が成り立たないほどなのですが、こういうことをやりたいと声をあげてもらうことが市民サービスにつながります。今後も日立さくら日本語学校、ボランティアの皆さんと連携を取りながら地域ぐるみで活動していけるといいと思います。
松浦:私は地域づくりを目指しているわけではありませんが、一人一人の学生が幸せになれば地域も幸せになると思うので、目の前の学生のことを思って、日本語を学んで彼らの人生が豊かになることをサポートしていきたいと思っています。
取材を終えて
今回お話を伺って感じたのは、行政の方、ボランティアの方、日本語学校の先生、留学生など外国人、それぞれの距離がとても近いということでした。これは地方都市ならではなのかもしれませんが、都会でも町単位であればできるのではと思います。また日立市のホームページにはやさしい日本語を使って作成した「がいこくじんのみなさんへ」というお知らせがあり、更に英語、中国語、韓国語での自動翻訳機能に加え、音声の読み上げ機能がありました。この機能を使って市のホームページを教材にしてみるのもいいかなと思いました。
取材・執筆:仲山淳子
流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。
関連記事
2024年 10月 27日
ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)
日本語も日本文化もわからないまま、家庭の事情等で来日し、日本の学校に通う子どもたち。その学習にはさまざまな支援が必要です。子どもたちの気持ちに寄り添い、試行錯誤を続ける近藤美佳さんの記事、後編です。
2024年 10月 03日
日本で学び、日本で暮らすーマクドナルド・ミゲル・レネさん(カナダ出身)
海外から留学し、日本語を学び、日本で活躍する方にスポットライトを当てて、お話をお聞きしていきます。日本にはどんな経緯で来たの? 日本語学習はどうだった? 今は日本でどんなことをしているの? などなど、伺っていきます。これから日本語教師を目指す方も、学習者の皆さんが、どのようなバックグラウンドを持っているのか、知ってもらうことができればと思います。3回目はカナダ出身のマクドナルド・ミゲル・レネさんにインタビューしました。...
日本で学び、日本で暮らすーマクドナルド・ミゲル・レネさん(カナダ出身)
2024年 09月 27日
ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(1)
2024年 05月 22日