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日本語教師のためのよくわかる著作権 第2回 気を付けよう、著作権

授業のための教材を作っていると「著作権に触れていないのかな?」「どこまで使ってもいいのかな?」と悩むことがありますよね。「著作権オタク」を自認する我妻潤子さんのコラムシリーズ第2回は、著作権について誤解しがちなポイントについてご紹介いただきます。

日本語教師のためのよくわかる著作権 第1回 著作権ってなぁに?

知っておこう、著作権についてのよくある誤解

今回は「気を付けよう、著作権」と題して、4つのケーススタディを紹介していきたいと思います。よくある誤解に言及します。

[ケース1]手打ちもコピーです!

「この新聞記事、明日の授業で学生に読ませたいなあ。著作権があってコピーはできないけど、自分でパソコンに打ち出して、印刷して配れば大丈夫だよね?」

著作権と聞くと「コピーしてはダメなのでしょ?」とよく言われます。これは正確にいうと、「第三者の許可なく複製してはいけない」ということです。この文面の「複製」はコピー機でコピーするという意味だけでなく、もっと広い意味で使われます。それは、すでに作られた著作物を知った上で、もう1つ同じものを物理的に作成するということです。これが、著作権法上の「複製」というものなのです。

例えば、新聞記事(著作物)で考えてみましょう。最近は新聞記事も新聞紙に掲載されているものと新聞社のウェブに掲載されているものと大きくわけて2種類あります。では、紙媒体の新聞紙を複製するとはどういうことでしょうか。まず思いつくのが、コピー機で印刷することです。次に、カメラや携帯などで撮ることでしょうか。これら以外にも新聞紙をスキャンするという行為も著作権法上でいう「複製」に該当します。

では、ウェブに掲載されている電子媒体の新聞記事の場合はどうでしょうか。ダウンロードをする、ダウンロードが出来なければスクリーンショットをするというのが電子媒体におけるコピーの一連の流れではないでしょうか。もちろん、どちらも「複製」にあたります。そして、昔ながらのコピーの仕方である、写しはどうでしょうか。つまり、自分で、手打ちすれば、手書きすれば自分が作成したものなのだから複製にはならないのでしょ?という判断の問題です。

しかし、冒頭に記述したように著作権法上の「複製」は、もう1つ同じものを物理的に作成するということですから、手打ちをしても、手書きをしても複製していることに変わりはありません。コピー機が無かった時代は写本が複製を作るという行為だったわけですから。また、新聞記事を読み上げて録音・録画するという行為も複製に含まれます。録音も録画も、著作物を読み上げることで、音声という別の複製物を作り出すからです。

[ケース2]「限定」公開の意味

「昨日の無料セミナー、とてもよかった。田中さん、うっかり申し込みの締め切りに遅れちゃったって言ってたな。セミナー主催者からアーカイブ視聴のURLが送られてきたから、転送してあげよう。」

コロナが発生して2年以上が経ちました。その間、オンラインセミナーなどが多く行われるようになってきました。そのような中、皆さんが受講されるセミナーなどでも、参加者のみがセミナーのアーカイブ視聴ができる、というような特典がついているものが多くあるのではないでしょうか。その際、皆さんが気を付けなければならないのは、「参加者のみ」という点です。この時点で、セミナーの動画は「参加者」に限定して公開します、という条件が付与されています。なので、たとえば動画投稿サイトのURLが送られてきたとしても、そのURLを参加者以外の人に転送することは、セミナー主催者との契約違反になります。

有償セミナーの場合、参加者もお金を払っているので「参加者のみ」という言葉に敏感になりますが、無償セミナーの場合だと、転送する側のハードルが下がるように思います。「タダだし、申し込みが間に合わなかっただけだから、田中さんにおくってあげよう!」という行為はダメなのです。主催者が参加者のみ限定公開としている判断に、皆さんが想像する以上の理由があるかもしれないからです。

著作者には自分の著作物をどのように公表するのかを決められる権利があります。「限定公開」とされているのであれば、それが著作者の意思のため、利用者がその意思以上の行為をする場合には許諾が必要になるのです。筆者が講師を務めるセミナーでも期間限定の公開範囲は参加申込者のみという条件でアーカイブ動画を視聴してもらっています。これは、著作権を取り巻く状況が代わることがあり、公開時点では「真」であっても、アーカイブの間に「偽」になる可能性があるからです。

[ケース3]ありふれた表現は保護されません

「小テストを作るのに、いろんなテキストからの文を参考にしたいけど、「私はアメリカ人です。」とか「趣味は読書です。」っていう文も使っちゃダメなのかな?」

著作権は著作物を作成した著作者の権利です。では、著作物とは何をさすのでしょうか。著作権法では「思想・感情を創作的に表現し、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされています。これだけでなにを指しているか理解できる方は少ないと思います。例えば、データそのものや事実のみを既述した文章というのは、「思想・感情」ではないため、著作物とはなり得ないといわれています。よって、著作権で保護される可能性は低い。次に、「創作的に表現する」というのは創意工夫をして、第三者が見たり、読んだり、聞いたり、触れたりすることができる状態になっているものをいいます。創意工夫されていない「ありふれた表現」は著作物ではありません

上の図を参照して下さい。りんごの絵がAからCまで3点あります。Aは非常にシンプルなりんご、Bは水彩画風のりんご、Cはウサギの耳をかたどったりんごです。皆さん、ここで「リンゴの絵を30秒で描いて下さい」と言われたら、どんなリンゴを描きますか。きっと、Aに似たリンゴを描かれる方が多いのではないでしょうか。これがいわゆる「ありふれた表現」と言われるものです。誰もが同様に表現するものは著作物とはいいがたいのです。

Aに対し、Bは水彩画風に描かれていて、下部の黄色味のボカシ方に創意工夫があるといえるでしょう。油彩画、クレヨン画、色鉛筆で描くなど表現方法が多種あるなかで、水彩画を選んだということも創意工夫された表現の1つと言えます。また、水彩画風のりんごが皆、この絵のように下部のボカシのバランスを同じように表現される可能性は低いと思います。したがって、Bの絵は著作物性が高いといえます。Cの絵は「リンゴの絵」と言われた際に、皮がむかれたリンゴを思いつく人は少ないでしょう。

実際、筆者が行うセミナーでリンゴの絵を描いてもらうことがありますが、ほとんどがAのようなイラストで著作物といえるものは少ないかもしれません。つまり、第三者とは異なる個性を持つものが「著作物」と言われるのです。また、図2からわかるように、上手い下手は著作物であることの条件にはなりません。

「ありふれた表現」は文章にも適用されます。「私は日本語教師です」や「このお弁当は私のです」というような文は著作物性が低いと言えるでしょう。文章の場合、短いものは創意工夫された表現がなされにくいとされていて、新聞の見出しなどは著作物性が低いものの1つとしてよく例に挙げられています。  

[ケース4]出所を表示するだけでは引用になりません 

「どこから使ったか明記しておけば、引用だから無断で使っても大丈夫。今日本で人気の漫画を1話分引用しようかな。」

「引用」という言葉を聞くと、出所表示をしていれば問題ないという声をよく聞きます。しかし、著作権法上の引用は出所表示だけではその条件を満たしません。下記を参照ください。6つ項目があります。これらすべてをクリアすることが必要なのです。各項目のポイントを1つずつ解説していきます。

項目1「公表」とは、特定の友人や家族を除く人たちでも、その著作物にあたれる状態になっていることをいいます。なので、友人から来たメールや手紙は引用することができません。

項目2「必然性」は、第三者に引用の必然性が説明でき、第三者もその説明に納得するということが求められます。たとえば、自作教材を作っている際に、ページの余白があったので、漫画のキャラクターのイラストを公式HPからコピペし、余白に張り付けた。引用にするために、出所表示はした。これは「必然性」があるとはいえません。余白を埋めるという理由だけでは、その必然性を第三者に納得させることは難しいでしょうし、漫画のキャラクターと自作教材の関係性も希薄です。出所表示をしたとしても、引用にはならないでしょう。

項目3「明瞭区分」は、自分が作成している著作物と引用したい他人の著作物の区別をつけ、第三者が見たときに当該箇所が引用されたものであるということがわかる必要があります。文章の中に図や画像を引用する場合は、明らかに自分の著作物(文章)と他人の著作物(図や画像)の区別はつきます。一方で文章の中に文章を引用する場合には、引用する文章は自分の文章よりも2字分ほど下げて文章を始める、イタリック体で書くなどの方法で区別を付ければよいとされています。

項目4「主従関係」は、自分の著作物があくまでも「主」であり、引用する著作物は「従」でなければならないということです。つまり、引用する著作物は自分の著作物に対し補足的な意味を持っていなければならないのです。これは時には「量」と言われることもありますが、そう単純なものではありません。「量」で判断してしまうと写真1枚全部を引用することができなくなってしまいます。写真を部分的に引用するとこの次の項目で説明する「改変」になってしまう可能性があります。

項目5「改変」は、漢字にフリガナを振るなどやむを得ないものを除き、引用する際には気を付けなければなりません。学習目的以外で、漢字で表現されている言葉をひらがなに置き換えるなどの行為も改変にあたります。また、誤植があったとして、それを訂正することも「改変」とみなされます。誤植のまま引用してフリガナの位置に(ママ)と表記します。既述のように、写真などの画像をトリミングするという行為も「改変」に値する場合があります。

項目6「出所表示」は、引用された著作物の所在を表すことが求められます。よくあるのは書籍名だけが記されているケースです。ただし、これでは不十分で「著者名、書籍名、出版社、発行年、ページ数」が記載されていれば、十分な出所表示となるでしょう。インターネットからの引用の出典については、図1を参照して下さい。参照日は記載しておくと、少なくともその時点まではインターネット上に記載があったという印になります。

これら6つの項目をクリアして初めて引用となります。そして、この6つの項目をクリアしさえすれば、著作権者に許諾を得なくても著作物を利用することができるのです。たとえ「無断引用不可」と記載されていても、です。引用は条件さえ満たせば、そもそも著作権者に許諾を得なくても利用できる著作権法上の例外の1つだからです。

いかがでしたか。もしかしたら「あ、知らずにやっていたかも」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。知って意識しておくだけでも、後々無用なトラブルを避けられることもあるでしょう。著作権は日本語教師だけでなく、様々な場面で必要となる知識なのです。

執筆:我妻潤子

株式会社テイクオーバル コンテンツライツ事業部長、AIPE認定知財アナリスト(コンテンツ・ビジネス)、東京藝術大学非常勤講師。生徒、学生、教員の他、日本語教師を対象とした著作権についてのセミナーや講演の講師を務め、特に利用者、権利者の両面からの解説には定評がある。

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