もうすぐ2022年がやってきます。来年から日本語教師の勉強を本格的に始めよう、来年は日本語教師としてデビューしてみようと、今から計画を立てていらっしゃる方も多いと思います。ここでは、これから日本語教師を目指す人向けに、日本語教師を取り巻く社会的背景についてご説明します。(編集部)
毎年1県分の人口が減っている日本
コロナ禍の影響により、2020年および2021年は日本語教育界にとっては厳しい年でした。しかし、その前の2019年の春頃は、日本語教育という言葉が毎日にようにニュースを飾っていました。それは、2019年6月に「日本語教育の推進に関わる法律」が公布・施行されたためでした。
「日本語教育の推進に関わる法律」とは、日本に滞在する外国人の日常生活・社会生活を円滑にし、日本を理解してもらうのに日本語教育の推進が大切であることから、日本語教育に関する基本方針や基本事項を定め、国や地方自治体、企業などの責務を明らかにし、共生社会を実現していくことを目的に作られた法律です。
なぜ今、日本は国を挙げて日本語教育を推進しようとしているのでしょうか。その背景には、少子高齢化という日本が抱える大きな問題があります。
厚生労働省が2021年6月に発表した「人口動態統計月報年計(概数)」によれば、日本の2020年の出生数は約84万人と過去最少、自然増減数(出生数と死亡数の差)では約53万人の減少でした。この53万人の人口減少という数字を具体的にイメージするために、2021年現在の、比較的人口の少ない都道府県の人口数と比較してみます。
鳥取県:約55万人
島根県:約67万人
高知県:約69万人
こうして見ると、1年間の日本の人口減少数が鳥取県の総人口とほぼ同じであることが分かります。1年間に1県分に近い人口が減少しているとなれば、そのインパクトの大きさがイメージできるでしょう。
さらに、毎年出生数が減り続け、高齢人口の割合が急激に増えているとなれば、今後、ますます生産年齢人口(15~64歳)は減少していきます。そうなると、現状の日本社会や日本経済を維持することが困難になることは明らかです。
より多くの外国人により長く滞在してもらいたい
そうした中で、2019年4月に新設されたのが在留資格「特定技能」です。これをもって政府は、人材不足が深刻な14分野を対象に、今後5年間で34.5万人の新たな外国人受け入れを見込みました。「特定技能」の在留資格申請に当たっては、日本語能力試験N4レベルの日本語力と技能試験に合格することが必要とされています。
「特定技能」は、各国の手続きの遅れなどもあり、当初は想定通りには増えませんでした。そうこうしているうちに日本を含め世界はコロナ禍に見舞われました。水際対策として外国人の入国は厳しく制限されるようになりましたが、その一方で帰国できない技能実習生が在留資格を特定技能に切り替えて日本に残るケースが増えていきました。
2021年11月には、出入国在留管理庁が「特定技能」の在留期限をなくす方向で調整しているという報道がありました。「特定技能」は1号(最長5年)と2号(更新可、在留10年で永住権取得可)がありますが、報道によれば、現在2号の対象となっている「建設」「造船・舶用工業」の2分野に加え、残りの11分野も2号の対象に追加する方向で調整中とのことです(ちなみに「介護」分野は、既に介護福祉士の資格を取得することで在留資格延長が可能)。これが実現すれば、2020年代後半には在留資格「特定技能」は、当初の目標としていた30万人規模になるだろうと試算しています。
この皮算用が現実的なのかどうかはともかく、今後はより多くの外国人を受け入れ、かつ長期に渡って滞在してもらう方向で、日本の外国人受入れ政策が進んでいくことは間違いないでしょう。そのような中で大切なのは、外国人と日本人が相互に理解し、仲良くお互いの文化を尊重して、活力ある共生社会を創っていくことです。そのために、日本で暮らし、働き、学ぶ外国人にとって必要な日本語の習得、つまり日本語教育は極めて重要であり、日本語教師には大きな役割が期待されています。
日本語教師の国家資格化
前述の「日本語教育の推進に関わる法律」第21条において、日本語教師については以下のように定められています。
国は、日本語教育に従事する者の能力及び資質の向上並びに処遇の改善が図られるよう、日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備、国内における日本語教師(日本語教育に関する専門的な知識及び技能を必要とする業務に従事する者をいう。以下この条において同じ。)の資格に関する仕組みの整備、日本語教師の養成に必要な高度かつ専門的な知識及び技能を有する者の養成その他の必要な施策を講ずるものとする。
この中の「日本語教師資格に関する仕組みの整備」については、公認日本語教師(日本語教師の国家資格化)の準備が進められています。日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議において「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」が取りまとめられ、2021年8~9月には多くのパブリックコメントが寄せられました。
2022年は日本語教師の資格が創設されることにより日本語教師の資質・能力が証明され、日本語教育の質の向上と必要な数の日本語教師が確保されることで日本語教育が一層推進されることが期待されます。そしてそのことにより、専門家としての日本語教師のステイタスが向上し、今以上に魅力ある職業の選択肢の一つとして社会的に認知されるようになればと思います。
関連記事
2024年 11月 14日
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス
2024年 11月 14日
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに
2024年 10月 31日
日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を
日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を
2024年 10月 27日
ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)
日本語も日本文化もわからないまま、家庭の事情等で来日し、日本の学校に通う子どもたち。その学習にはさまざまな支援が必要です。子どもたちの気持ちに寄り添い、試行錯誤を続ける近藤美佳さんの記事、後編です。
2024年 10月 15日