読解・会話・作文・聴解。これらの各技能の授業、自信を持って行えている、と言える教師は少ないかもしれません。メインのテキストの進め方はわかっても、読解、あるいは作文などの授業は「このやり方でいいのかな……」と漠然と不安を抱えていたり、新人の教師はそもそもの進め方がわからなかったり。そんな教師たちの「なんとかしたい」という気持ちに応える書籍が誕生しました。著者の望月雅美先生にお話を聞きました。(インタビュー:編集部)
待ち伏せして採用試験⁉ 日本語教師としての道のりと、気づき
――先生にはこれまでアルクの本も複数執筆いただいていますが、まずは先生の教師になったきっかけやこれまでの経歴を教えてもらえますか。
わたしは、海外で仕事がしたいという気持ちがあって、気に入った国で働こう! と思って何か国か旅行したのですが、その結果、どの国も気に入ってしまったんです。それで日本語教師なら日本にいながらにしていろんな国の人と出会えるし……と思ったのがきっかけです。そこから日本語教育能力検定試験に独学で合格したのですが、実技もやっていなければ教案って何? という状態だったので検定合格後に千駄ヶ谷日本語教育研究所で実技を学びました。当時は日本語教師の職を得るのが難しかったので、理事長がトイレから出てくるのを待ち伏せて話しかけ、採用試験を受けさせてもらったんです。
――積極的にいったんですね! そこからはどのようにお仕事を?
そこからカイ日本語スクールなど2つの学校で掛け持ちして教えていました。かなりオープンな学校で、他の先生方の授業を見学させてもらったり有志で勉強会を開いたりできるなど、環境に恵まれていたと思います。お茶や着物など、日本文化の授業も受け持っていました。そして、新人教師の研修も受け持つことになりました。その後、「日本語教師の7つ道具シリーズ」など書籍の執筆も行うようになりました。
――新人教師の研修を担当したり、教師用の書籍を執筆したりする中で、本書につながる先生なりの気づきがありましたか?
授業には変えなくていい部分と、変えたほうがいい部分があることに気づきました。変えなくていい部分は授業の基本的な組み立て方です。組み立てはゼロから作り直す必要はなく、どんな授業でも3ステップで展開していくことができます。この3ステップは当たり前のことのようで、実際の授業ではどこかが抜けていたりしてできていないことが多いようです。それ以外は教師自身の個性やクラスの状況によって変えたほうがいい部分です。
『どう教える?日本語教育「読解・会話・作文・聴解」の授業』の特徴とは
――そのような気づきが今回の書籍につながっていくんですね。簡単に今回の書籍の特徴を教えてもらえますか。
本書は、効果的な4技能の授業を、教師自身で組み立てられるようになることを目指して作りました。各ステップの活動アイデアもたくさん紹介しています。
全体的に4技能の授業は皆さん、進め方がいまいちわからず、でもなんとなく授業は流れていき、「こんな感じでいいのかな……」と悩んでいるようです。例えば作文ならテーマを与えて「はい、書いて」って言えば授業が進むことは進むんですよね。
でもそれではたして、学習者の日本語が伸びていくのか。各授業ごとにきちんと学習目標を立て、それに向かって論理的に活動を組み合わせ、ステップを踏んでいくことで学習者も教師も同じゴールを見据えて進めると思うんです。本書の中では、実際の「授業例」も、学習目標をかかげ、3ステップで組み立てて見せていますが、それも「どうしてそう組み立てたか」までわかるように見せています。
――学習目標に向かっていくことが大事なんですね。
本書の「授業例」では、同じテキストの同じ項目を扱っていても、学習目標が異なるので全然違う展開で進む授業が何例も出てできます。同じ素材でも目指すゴールによって全く違う授業になることがわかると思います。それぞれのステップごとの活動アイデアも複数提案していますから、学習目標などに合わせて教師が自分で選んで組み立てることができます。
――それぞれのステップごとに提案されている活動のアイデアが大変豊富ですが、先生自身はこれらのバリエーションをどう増やしていったんですか?
日本語教育だけに限って見ていると幅が狭まりますから、英語の分野、国語の分野、教師教育や思考術などアイデアがもらえそうなものからは何でも情報収集するようにしてきました。あと「7つ道具シリーズ」執筆後に大学院に入ったのですが、そこでは専攻外の講義も気になるものがあれば聞きにいっていました。そして、いいと思ったものがあったら自分の受け持つクラスで実践してみたり、それが難しい場合は他の先生に「やってみて」とお願いしてみたり。
――そうやって集めて実践した方法がこの本に詰まっているんですね。この本を読者にこう読んでほしい、注目してほしい、という点はありますか。
この本は、4技能のどこから読んでもいいようになっています。でも1章は基本の部分なので、先に読んでほしいです。そしてこの本の内容は、あくまでもたたき台として読んでほしいですね。これを決して正解だと思わないでほしいです。わたしだったらこうするのに、という批判的な読み方をしてもらっても全然構わないんです。学習者の希望によっても、教師の個性によっても「いい授業」って変わりますから。この本はそれに合わせて自分なりの授業が組み立てられる助けになればと思います。たたき台にしてほしいというのはそういうことです。
大切な作業、リフレクション
――自分の個性に合う授業がどんな授業なのかを知るのは難しいと思うんですが……。
そこでぜひ行ってもらいたいのが授業のリフレクション(振り返り)です。1章の終わりにリフレクションについても書いているので、ここは飛ばさないで読んでほしいです(笑
例え同じ授業をやっても、クラスのメンバー、教師、状況が違えばうまくいく場合もいかない場合もある。今日の授業がうまくいったと思うのなら、それがどうしてだったのか、客観的に振り返ることができるのがリフレクションです。リフレクションを行うことで、自分の考え方の傾向や、自分に向いている授業のやり方というのも客観的に見えてきます。日本語教師同士でもっと授業を見せ合って、お互いに否定するのではなくリフレクションを行う機会を作れるといいと思います。そうすることでよりよい授業を作っていけるはずです。
――実践とリフレクションを一連の流れとして取り組んでいくといいのですね。この本は、これから教師になる人、今、各技能の授業の組み立てに悩んでいるたくさんの人に読んでほしいですね。ありがとうございました。
望月 雅美(もちづき まさみ)
カイ日本語スクールをはじめ複数の日本語学校や大学、企業で留学生やビジネスパーソン、その家族に日本語を教える。日本語教師養成講座及び新人研修も担当。現在埼玉大学日本語教育センター非常勤講師。
著書に大森雅美名義で『日本語教師の7つ道具シリーズ1授業の作り方Q&A78編』『日本語教師の7 つ道具シリーズ2 漢字授業の作り方編』(共に共著、アルク)などがある。
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