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日本語ボランティアチューター制度で広がるコミュニケーションの輪

名古屋YMCA日本語学院では、「日本語ボランティアチューター」の制度を作り、活動を続けています。日本語ボランティアチューターとは、日本語を教えるというよりも、学習者と1対1でおしゃべりをし、学習者との関係を築いてもらうようなボランティアです。

今回は、チューターとして外国人学習者と接する中で得られる気づきや、チューター活動からの広がりなどを具体的に紹介します。チューター活動のコーディネーターである名古屋YMCA日本語学院主任教員、歌詠む日本語教師、惟任先生のコラムです。

 もうそんな季節なのかとオンライン交流会の背景の花

学習者と交流する中で得る気づき

日本語ボランティアチューターとして活動する方は、下は高校生、上は80代の方までさまざまです。普段の活動では週に1回、1時間程度、外国人学習者とおしゃべりをしてもらいます。毎回同じ相手です。会話の内容は、たとえばアルバイト先での出来事や昼ご飯に食べたものといった身近な話題、年中行事や習慣といった文化に関すること、新聞記事やニュース等の時事的な話題、また、授業のことや日本語についての質問といった日本語学習に関すること、そして、将来のことや悩み、困っていることといった個人的なことが多いようです。そこからチューターたちはどのような気づきを得ているでしょうか。

チューターからは、会話を通して学習者の勉学に対する姿勢を見たり、自分より若い世代の考え方を知ったりすることで非常に刺激を受け、それが生活のハリになっているという話を聞きます。また、「外国人」そのものに対して今までになかった関心を抱き、普段の生活やニュースなどで意識をするようになったという変化もあるようです。
日本語自体についても、学習者と交流する中であらためて気づくことが多く、たとえば書き言葉と話し言葉はどう違うのか、助数詞の使い方にはどんなルールがあるのかなど、普段特に意識することなく使っていた「日本語」について気づかされたことが多々あるようでした。
チューターの声からは、活動を通じて、個々にこれらのような気づきを得ていることがわかります。

そうした活動や気づきの中で、対応が難しいと感じたり不安に感じたりする点もやはり出てきます。難しいものの一つに日本語そのものに関するものがあります。たとえば、動詞の活用について聞かれたが、これまで考えたことがなかったのでうまく答えられず、自分でも何が何だかわからなくなってしまったというようなものです。当校では第1回目の活動を始める際にオリエンテーションをおこないますが、学習者とチューターの双方に、この活動は日本語を勉強する時間ではなく、おしゃべりの時間だということをあらためて確認しています。しかし、それでも学習者からの日本語に関する質問はもちろんあるので、チューターには答えられる範囲で答えてもらい、難しい場合はわたしに伝えてもらえれば、わたしから学習者に説明すると言ってあります。

また、学習者との会話の中では、個人的な悩みや将来の夢なども出てくることがあるので、学習者の個人的な話を聞いてしまったが、どこまで聞いてしまっていいものなのかといった距離感の取り方の難しさも挙げられていました。これについては、学習者がそこまで自己開示をするということはチューターを信頼しているからなので、どんどん聞いてくださいと伝えています。前回も書きましたが、チューターだからこそ教員には話せないようなことも話せるし、それが学習者の留学生活を精神的な面で支えることにもつながるのではないかと思います。

広がっていく活動、深まる関係

日本語ボランティアチューターとしては主に、前述したような学習者との「おしゃべり」を通じての交流がありますが、それだけには留まらず、授業や学校行事などにも積極的に参加していただいています。普段の授業では、スピーチを見学していただいたり、インタビューの相手になっていただいたりしています。特にスピーチの見学については、その有無によって学習者のスピーチに取り組む姿勢に大きな差が生じます。また、主な学校行事として、いずれも春と秋におこなわれる新入生歓迎会と遠足があり、毎回約10名が参加しています。入学式と卒業式にも来賓として出席していただいていますが、特に卒業式で学習者がチューターに見せる感謝の表情は、教員に見せるのとはまた違った、まるで家族に対するようなもので、ちょっと嫉妬してしまうほどです。チューターの中には、「おしゃべり」の交流は時間的な制約等がありできないのですが、授業や学校行事に積極的に参加してくださる方もいらっしゃって、いつの間にか学習者とお互いに名前で呼び合っているのを見ると、新たな関係性が生まれていることが実感できてうれしくなります。このように、チューターとして学習者と築いた関係は週1回の活動時間の枠を超えて、学習者や学校に大きな彩りをもたらしてくれます。

2020年7月30日現在は、新型コロナウィルスの影響で対面での活動は休止しています。そのような中で、LINEやMessengerのビデオ通話で活動を継続しているペアもありますが、2、3組だけです。また、4月に入学予定だった学習者の多くが10月入学への変更、あるいは入学を辞退したので、新たなペアをマッチングすることができず、多くのチューターが活動開始を待っている状態です。そこで、5月と6月にチューターと学習者とのオンライン交流会をZoomで3回実施したところ、延べ51名が参加しました。この中には、4月に入学予定でしたが、まだ日本に入国ができていない学習者も含まれており、彼らにとっては日本語で日本人と交流ができる貴重な機会となりました。LINEやMessengerとは異なりZoomは、一度に複数の人とグループに分かれて会話をすることができるので、学習者とチューターの双方にとって、多くの人と知り合えることが利点です。しかし、グループにすることにより、発話者に偏りが生じたり、学習者が興味を持ちにくい話題についてチューターが話していたりする様子も少し見られました。そのため、今後はグループでの会話のルールや話題を決めて実施したいと思っています。

基本的には学習者と直接会話をすることが、チューターとしてお願いしている役割ですが、定期的に同じ相手と話を続けることで得られる気づきは学習者側にもチューター側にも大きなものがあります。また、行事への参加や、非常時にはオンラインを通じての交流など、活動の幅には大いなる可能性があるのが日本語ボランティアチューターといえるでしょう。

最後に強く印象に残っているチューターのTさんの言葉を紹介したいと思います。

「直に知り合うということは、その人を通してその国にとか、年代の人とかに、あらためてすごい気づきがあって。日常生活を送る上でも、それがハリになったり、活力になったり、ヒントになることもあったりします。息子は来年受験生なんですけど、あの留学生の子たち見てたら、なんだってやれるねって、ほんとにもう!」

 学生の髪がふはりと舞ひ上がるZoom画面にヴェトナムの風

執筆/惟任将彦(これとう・まさひこ)

名古屋YMCA日本語学院主任教員。兵庫県出身。高校までは体育会系だったが、大学から文化会系に転向、短歌を始める。大学卒業後に働きながら日本語教師養成講座に通い始め、1999年から2001年までネパールで日本語を教える。帰国後は主に大阪YMCA学院で教え、2017年10月より現職。日本語教育に関する主な著書に『ネパールで学ぶ日本語Vol.1~Vol.4』(共著、自費出版)、『テーマ別中級から学ぶ日本語三訂版ワークブック』『テーマ別上級で学ぶ日本語三訂版ワークブック』(いずれも共著、研究社)などが、歌集に『灰色の図書館』(書肆侃侃房)がある。

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