【Merry Christmas】子ども向け商品大特価セール実施中! 【Merry Christmas】子ども向け商品大特価セール実施中!

検索関連結果

全ての検索結果 (0)
コロナ禍によるオンライン授業の計画、実施で感じたことー日本語学校主任教員の立場からー

今回のコロナ禍の影響は社会のさまざまなところに影響を及ぼしており、社会のあり方も大きく転換を迫られています。その中でもとりわけ影響が大きいのが、「学校」などの教育機関です。小学校や中学校などは軒並み休校になり、部分的にオンライン授業を行った、あるいは現在も行っているところもあります。日本語学校も例外ではありません。しかし今まで実施していなかったオンライン授業を急遽始めるにあたり、さまざまな面で支援・配慮体制整備を行う必要がありました。今回は私が勤務する日本語学校を取り上げ、実際にオンライン授業を行った際の経験を共有させていただこうと思います。(柏谷涼介)

通常授業とは違う「オンライン授業」

日本語学校では、通常「対面授業」で日本語を教えます。対面授業というのは、教室などの場に教師と学習者が集まり、文字通り「対面」で授業を行う方式です。平常時は対面授業を行っているのですが、今回の新型コロナウイルスの影響を受け、私が勤務する日本語学校では「オンライン授業」を一定期間行いました。インターネット上の情報から判断するに、今回のコロナ騒動により、オンライン授業を行った日本語学校は少なくなかった、という印象です。

オンライン授業とは、インターネットを用いた授業の方法の総称として使われています。さまざまな形態がありますが、Skypeやzoomなどのweb会議システム等を使用し、リアルタイムで教育を行う方法は「同期型」と呼ばれ、インターネット上に既にアップロードされているコンテンツ、例えば動画や練習問題などを使用して、学習者が好きな時に勉強できる方法は「非同期型」と呼ばれています。

今回は、この「同期型」と「非同期型」の両方を取り入れてオンライン授業を行いました。

「まずは始める」ことを優先

当校では、授業を行う日本語教師は全員PowerPointやKeynoteなどのプレゼンテーションソフトを使用して、授業を進行しています。

学習者には「Chromebook(クロームブック)」という、Googleのサービスを利用した比較的安価なノート型のパソコンを1人1台配布しており、各自の端末を使って日本語のプレゼンテーションのスライドを作ったり、日本語入力で作文を書いたりなどの方法で日本語の学習をしています。また、GoogleclassroomというLMS(学習管理システム:Learning Management System)を使用し、課題の配布等も行っています。比較的ICTを積極的に取り入れている学校と言ってもいいと思います。

上記のように、ある程度はICTを取り入れた体制ができていましたが、「オンライン授業」は全く初めての試みだったため、教師の授業準備の負担の増大、通信環境の確保、パソコン等各種機器のトラブルの発生などが懸念されました。そこで、主任教員として以下のような点について支援、配慮体制整備を行いながら、進めました。

  1. 授業の内容
  2. 授業を担当する教師への配慮
  3. 事務職員との連携
  4. 学習者の住環境、ネット環境に合わせる

平常時は、各クラスのレベルに合わせてカリキュラムが組まれており、主にコミュニケーションを重視した日本語教育を行っている当校ですが、そのような形態の授業をオンラインで全く同じように再現することは、教師-学習者間、学習者-学習者間でも、視線すら合っているのかどうか分からないモニター越しの会話、さまざまな学習者のグループを同時に観察し、状況に合わせてグループを組み替えたりすることが困難、オンライン上のホワイトボードなどの機能はあるにしても使おうと思った時に時間差なく使えない、など多くの面で不可能だと実施前から分かっていました。

そこで、まずはオンラインでも実施が容易な「日本語能力試験対策」の授業を行うこととしました。授業の形態としては、まず「非同期型」で学習者は試験対策の問題を解き、その後教師が参加する「同期型」の授業で、問題の解説や質疑応答、関連事項の学習などを行う形で行いました。同期型の手段として今回はzoomを利用しました。

このような授業の形態はコミュニケーションの練習を主目的とはしていませんが、教師側の授業デザインの負担が少なく、容易に始められます。どのような形の授業でも、開始時にはさまざまなトラブルが想定されますが、今回は教師も学習者も「初めてのオンライン授業」であったため、このような形で始めました。数週間このような形でオンライン授業を行い、さまざまな意味で教師も学習者も「慣れた」ころに、本来のコミュニケーションなどを扱う授業の内容に切り替えました。授業を担当した教師からは「とりあえず今回のような形で始められたのはよかった。始めから通常の授業と同じような内容だったら、かなり授業準備等が負担になっていたと思う」という声を聞いたので、ベストではないがベターな選択であったと思っています。

もちろん授業デザインの工夫は無限なのですが、今回は工夫をしようにも実践経験がなかったため、まずは「始める」ことを優先して、このような形を取りました。

教師への配慮、そして事務職員との連携

オンライン授業は対面授業とはさまざまな状況が異なるため、教師側の負担がかなり増大することは想定していました。そこで主に下記のような対応を教師の負担を減らす方法として実施しました。

  1. 開始当初は2時間のみ行い、慣れてきたころに時間を増やす
  2. 開始当初は常勤講師だけが担当する
  3. 常勤講師が慣れたころに、非常勤講師に対して、zoomの使い方も含めた研修を行う
  4. 非常勤講師は希望者のみがオンライン授業を行う

これらの配慮により、少しは教師側の負担が減り、無理なく行ってもらえたと思います。オンライン授業を計画した時点で、これらの教師側への配慮は非常に重要だと考えていました。この時期、多くの教育機関、教育現場でオンライン授業が行われたと思いますが、これらの配慮がない教育機関では、現場の先生たちに過度の負担がかかっていたのではないかと推測します。

あるいは、コースを取り仕切る教務主任にICTの知識がなく、現場の先生に丸投げ、というところもあったのではないでしょうか。そのような意味で、ある意味教育機関の「質」も問われたような時期であったと思います。

事務職員との連携も重要でした。当校では前述のようにGoogleclassroomという学習管理システムをプラットフォームとしています。今回はzoomに入るためのリンクをGoogleclassroomに貼り、学習者はそれをクリックして、zoomに飛ぶ、という方式でクラスへの入室を行う方法を取りました。しかし、開始当初はこの入室にあたって、多くの学習者が、入れない、違うクラスに入る、そもそもclassroomの該当の部分にたどり着けない、などのトラブルが、授業開始直前、授業中に間欠的に発生しました。

担当教師は授業に集中しているので、これらのトラブルには対処できない状態にあります。そこで事務職員(通訳含む)が、Messengerで対応しました。つまり、zoomとは「別ルート」を作っておいて、そこでトラブル対応をしたということです。入室できない学習者に対して、スマホのカメラを使って方法を指示したり、彼らの母語を使って操作のガイドをしたりなど、非常に多岐に渡る対応をしてくれました。

通常、「授業」は教師だけが行うものですが、今回のオンライン授業では、事務職員(通訳含む)が大きな働きをして、学習者の学習機会を保証してくれたと思っています。

当校のほとんどの学習者は、Wi-Fi環境のある学生寮に入居しており、オンライン授業を行うにあたって、回線についての大きな問題はありませんでした。一部、個人でアパート等を借りている学習者に対しては、事前にネット環境について聞き取りを行い、十分な環境を確保できない学習者に対しては、学校に来たり、別の学習者の部屋に行ったりするなど、十分なネット環境を確保するようにしてもらいました。

また、オンライン授業でのクラス分けは、通常の対面授業の時のクラス分けではなく、「同じ学生寮」や「同じ部屋」に住んでいる学習者が同じクラスになるように再編成しました。

これにより、一つの端末で2人以上が授業を視聴できるようになり、通信状態の問題や音声のハウリング、教師の出席確認などの問題をある程度解決することができました。

変化に対応する、変化を飲み込んで進化していく

2020年6月18日現在、対面式の授業を再開しています。

教師にとっても学習者にとっても初めての経験だったので、いろいろなハードルや負担を軽減した上で始めたことについては正しかったと思います。平常時は試験対策に特化した授業は行っておらず、「自律」と「協働」を方針の核としてさまざまな授業を行っています。今回に関しては、それらの方針をきちんと反映した授業を計画するには時間がありませんでした。本来は個々の授業や科目に関して「教育目標」があり、そこから逆算して授業をデザインしていく、いわゆる「バックワードデザイン」を行いますが、今回に関しては「まずやってみる。それから考える」というスタンスで臨みました。非常時にはこれは有効だったと思います。「理想とは違っても、まずは始める」ことが重要な場合もあることを実感しました。

今回のコロナ禍に際して、端末や通信環境の問題、教師のICTスキルなどの理由から、オンライン授業を行わなかった教育機関もあると思います。しかし、私が思うに「オンライン授業をするか、しないか」が問題ではなく、「限定された条件の中で、関係者負担をできるだけ軽減して、よりよいことを行う」ことが重要ではなかったか、と思います。ある意味、教育機関が、教務主任などのトップが、その面に関して試された、ということも言えるのではないか、と思います。

個人的には、日々前例のない決断を限られた情報の中で行わなければならず、気の休まる暇がありませんでしたが、教師陣及び事務スタッフのおかげで何とか乗り切ることができた、というのが実感です。多くの教育機関で私と同様の、あるいはもっと大変な状況にあった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は「新型コロナウイルス」が原因でこのような事態になりました。今後どのようなことが原因となって、どのような事態が起こりうるのかは、誰にも予想できませんが、今後は取り敢えず「非同期型のコンテンツ」を充実させることが、事前対応の一つになるのではないか、と感じました。簡単なところで例を挙げると、オンライン上の試験対策の問題を増やしたり、文法や語彙の学習など、比較的「解説」で行いやすいものを取り上げた動画コンテンツ等を増やしたりしておくことです。現在、これらの非同期型のコンテンツは方法さえ知っていれば、誰でも無料で作成することができます。予めこれらを作成しておくことで、対面式授業の補完としても利用できますし、来日前の留学生の事前教育にも役立てることができるのではないでしょうか。

また、これはすごくマクロな視点ですが、zoomで行うことをそのまま授業の設定として生かすような積極的な方法も考えられます。例えば、「遠距離恋愛なのでzoomで話す恋人同士」とか「zoomでの大学入学試験、就職時の面接」などの設定で日本語の練習を行う方法です。これらは現在の状況を逆手に取って、生かしていく方法です。「対面授業と同じようにできなくて大変だ」ではなく、対面授業ではできないことを探っていく貪欲な姿勢も必要だと思います。

当校は日本語教師養成機関として、日本語教師養成講座も行っていますが、養成の段階から「オンライン授業の教育実習」なども取り入れていく必要があるのではないかと感じました。その前段階としての基礎的なICTの知識も当然必要だと思います。

いずれにしろ、教育機関も教師も学習者も、柔軟に、臨機応変に、状況に合わせて変化していくことが根本的に求められている時代だと感じています。

執筆/柏谷涼介

現在はセントラルジャパン日本語学校(名古屋市)主任教員。日本語教育歴約20年。
日本語教師を始めたきっかけは「なんとなく」。
主に日本国内の外国人留学生への日本語教育を行うかたわら、東海地域の外国人市民のための日本語教育の支援や、日本語ボランティア向けの講座などの活動も行っている。
文化庁届出受理済みの日本語教師養成講座の講師も担当。ICTとの関わりは、10年ほど前に初代iPadが発売されたころ、「なんかかっこいいから授業に取り入れた」のが始まり。
二児の父。愛犬家(毎朝5時から散歩)。最近はコンピューターを使って音楽を制作、ネット上で音楽活動も。

関連記事


「日本語教育の参照枠」から見直そう!ー文型中心と行動中心はどう違う?

「日本語教育の参照枠」から見直そう!ー文型中心と行動中心はどう違う?
皆さんはもう「日本語教育の参照枠」を見たり、聞いたりしたことがあると思います。でも、イマイチピンと来ないな…と思う方も多いのではないでしょうか。「で、何をどうすればいいの?」など、授業のイメージがつかめないといった声をよく耳にします。それもそのはず、「日本語教育の参照枠」は教育または学習についての考え方、そのあり方を述べたもので、カリキュラムや授業の方法を示したものではないのです。そこで、今回のコラムでは「日本語教育の参照枠」を教室での実践につなげてとらえてみようと思います。(亀田美保/大阪YMCA日本語教育センター センター長)

日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例

日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例
7月某日、『できる日本語』の著者陣が勤務する学校でもあるイーストウエスト日本語学校の授業で、日本語話者を招いてインタビューをするビジターセッションが行われました。今回、アルクのメンバーがビジターとして招かれて授業に参加することになったので、その様子を取材してきました。

募集中! 海外日本語教師派遣プログラム

募集中! 海外日本語教師派遣プログラム
コロナ禍も落ち着き、海外と日本の人の行き来が戻ってきました。日本国内の日本語学習者は順調に増加していますが、来日せずとも海外で日本語を学んでいる学習者は約379万人もいます。そのような海外の日本語教育の現場に入って、現地の日本語教育を支援する日本語教師の派遣プログラムをご紹介します。