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地域日本語教育事例報告セミナー「日本語教室の可能性を切り拓く」

2023年1月19日、福岡県が主催した地域日本語教育事例報告セミナー「日本語教室の可能性を切り拓く」(以下、福岡県セミナー)が、アルク、凡人社の協力を得てオンラインで開催されました。地方公共団体の職員など約170名が参加した福岡県セミナーは大きな反響を呼びました。本コラムでは、福岡県セミナーにおける各自治体の発表内容を要約してご紹介します。(執筆:深江新太郎/福岡県・地域日本語教育コーディネーター )

福岡県の日本語教育環境整備事業について

福岡県内:在住外国人数:85,065人(2022年6月時点)。その内、技能実習など、日本で経済活動に従事するいわゆる外国人材の占める割合は約27%。在住外国人数はコロナの影響を受けて一時的な減少はあったものの、現在ではコロナ前より多くなっている。

福岡県では日本語教育に関して次の3つの課題が挙げられています。

①外国人材:身近な場所や通える時間帯に日本語教室がない

②ボランティア:運営にかかる資金体制が脆弱

③企業:雇用する外国人材の日本語能力の向上を図りたいが、日本語教育を企業単独で行うことは困難

このような背景のもとで、2020年度から行われている事業が福岡県・日本語教育環境整備事業(以下、福岡県事業)です。福岡県事業は、県内在住の外国人材が身近な場所で日本語教育を受けられる環境を整備するために、地域における日本語教室を安定的に運営するモデルを構築し、県内他地域への横展開を図ることを目的に行われています。モデル市町村は公募で選定され、古賀市、直方市、苅田町の3市町が取り組むことになりました。

福岡県古賀市の取り組み

古賀市:人口は約59,000人、そのうち約1,000人が外国籍住民。国籍別ではベトナム、在留資格では技能実習が最も多い。食品加工業を中心とした製造業が盛んな地域。

古賀市には文型の学習を中心にした日本語教室があったのですが、2020年4月に国際交流・多文化共生係が設置された後、地域に開かれた住民主体の交流型日本語教室の試行が新たに始まり、2022年4月に交流型日本語教室に一本化されました。現在、水曜日の夜と日曜日の午前の週2回、開催されています。教室の登録者数は、学習者が99名、スタッフが44名で、学習者は平均して約12名の参加があります。 

その古賀市の取り組みの特徴は大きく2つあります。1つは交流型日本語教室の理念を施策のもとで具体的に位置づけたことです。もう1つは学習者、スタッフ、職員一人一人の主体的な関わりを軸にした運営体制です。

まず前者についてです。古賀市は2022年〜2031年の基本構想を策定するにあたり、「人権と多様性の尊重」という政策の一つとして、「自分らしく暮らせる多文化共生の推進」を明記しました。日本語教室の運営はここに含まれます。

次に後者についてです。古賀市の教室は、通常は学習者とスタッフがグループに分かれ、学習者のニーズに合わせた形で、スタッフが工夫を凝らしながら活動が進められます。また時おり、手づくりのイベントが開催されます。例えば2022年11月13日にはスタッフが企画した多文化ミニ運動会が開催されました。玉入れ、大縄などの競技に加え、市内企業からのプレンゼントも含まれたイベントになりました。

古賀市の教室は、住民主体の教室づくりのモデルを提示しています。その教室は開かれた場所であり、対等な関係性で遊び心があり、安心していられるあたたかなつながりです。それは「誰もが誰かの何かになりうる」教室づくりです。

福岡県直方市の取り組み

直方市:人口約55,000人、そのうち約600人が外国籍住民。国籍別ではベトナム、在留資格別では技能実習が最も多い。製造業、建設業が盛んな地域。

直方市が直面してる課題は、労働力人口の減少です。今後5年~15年の間に段階ジュニア世代が退職することにより、特に製造業では労働力を大きく失います。また、若者の地元定着率が低いため、労働力確保は企業にとり事業継続の大きな課題となっています。その中で、増加傾向にある技能実習生が地元企業を支えています。そのため直方市は、技能実習生を雇用する市内事業者の後方支援を行うための柱として、日本語教室開設に取り組みました。

直方市の取り組みの特徴は大きく2つあります。1つは地元企業の出資による運営体制を確立した点です。もう1つは日本語教師による教室とボランティアによる教室を分け、役割分担を明確にして2つの教室を運営している点です。

まず前者ですが、直方市は技能実習生を中心とした外国籍住民が定着して生活できるように支援する技能実習生等外国人支援協議会(以下、直方市協議会)を立ち上げ、市内企業の参加を募りました。直方市協議会では、技能実習生のための日本語教室のあり方を協議し、直方市の教室開設を支援しました。この日本語教室は、直方市内の企業が、1人につき月額3,000円を支払うことで日本語教室に通わせることができます。

次に後者についてです。日本語教室は、N3程度のコミュニケーション能力育成を目標とした日本語教師が授業する教室とその授業内容をフォローするためのボランティアによる教室の2つがあり、週1回ずつ開講しています。現在、約25名が参加しています。

直方市の教室は、企業出資による運営を行う教室のモデルを提示しています。2つの教室には、授業を行う日本語教師とコーディネーターを行う日本語教師が関わっています。日本語教師にとっては、地域日本語教育における役割を明確にした取り組みです。

福岡県苅田町の取り組み

苅田町:人口が約38,000人、そのうち約1,100人が外国籍住民。港があり空港に近いという好立地に恵まれた製造業が盛んな地域。

総人口における外国籍住民の割合が約3%にものぼる苅田町は、騒音、ゴミ出し、交通マナーなど、地域住民との摩擦が生じたことから、日本人住民と外国籍住民が顔の見える関係をつくりたいと考え、2021年に多文化共生推進プランを策定し、日本語教室の開設に取り組み始めました。この教室は、日本語学習支援の充実を図る施策として位置づけられています。そして、具体的な取り組みは、交流型の日本語教室の開講と就労者向け日本語教室の開講です。

苅田町の取り組みの特徴は大きく2つあります。1つは教室開講までのスピードが早いことです。もう1つは企業と連携した教室開講に対し苅田町の現状にそくし特色ある内容で取り組んでいることです。

まず前者ですが、苅田町の教室づくりのスタートは2022年4月です。2022年4月に、まず交流型日本語教室の役割を整理し、5月~6月に日時、場所、使用教材などを決め、8月に養成講座、9月にチーム作り、10月に教室周知、11月に教室開講を行っています。交流型日本語教室は、毎週火曜日の夜、開講しています。

次に後者についてです。苅田町は、企業と連携した就労者向けの教室を開講するために、6か月間、全20回の講座を企画しました。目標は、職場や地域社会でリーダー的な存在となれるようにN3程度のコミュニケーション能力を有することです。内容は15回が、日本語教師が担当するオンラインの授業です。これは生活場面と就労場面に基づいた内容です。そして5回が、苅田町の多文化共生推進員が担当する対面の活動です。これは実践学習と成果発表を行います。

苅田町の取り組みは、古賀市、直方市のモデルを基に横展開を行った最初の事例となります。その際、モデルをそのまま当てはめることはできず、苅田町のビジョン、実情、課題意識にそくした形でモデル事例をアレンジしていき、苅田町らしい取り組みとなりました。

まとめ

福岡県事業は日本語教室の運営について、2つの方法を示しています。1つは、住民主体の教室運営です。古賀市の教室がモデルです。これは、日本語を教えることが主目的ではなく、住民同士の交流を基礎にした教室です。この場合、地方公共団体は日本語教室を施策として位置づけた上で取り組む必要があります。もう1つは企業と連携した教室運営です。直方市の教室がモデルです。これは、対象が技能実習生で、日本語教師が授業を行う教室です。この場合、地方公共団体は企業とカリキュラムについて合意を形成する必要があります。苅田町は、この古賀市、直方市のモデル事例を活用することで、教室開講をスピーディーに進めることができました

今回のコラムでは、福岡県事業において各地方公共団体がどのような取り組みを行ったかという事例にそくして見てきました。次回のコラムでは、ではこの3市町の取り組みのどんなところが、日本語教室の可能性を切り拓いたのかについて考えます。

※次回はこちらから

https://shop.alc.co.jp/blogs/nj-local/20230306-fukukoka

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

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