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日本語教室の立ち上げはコンセプトづくりから―福岡県古賀市の多文化共生への取り組み

2021年3月5日、「福岡から自治体の取り組みと共に考えるシンポジウム ゼロから考える!地域の日本語教室」(文化庁委託事業,主催NPO多文化共生プロジェクト)が開催されました。オンラインで約150名が参加したシンポジウムの中で、福岡県古賀市の取り組みは、大きな反響を呼びました。本コラムでは、古賀市国際交流・多文化共生係の渋田典子さんの発表スライドを基に、古賀市がどのような取り組みを行ったのかを振り返りながらその問題意識に迫り、地域の日本語教室の在り方を考えます。(深江新太郎:多文化共生プロジェクト)

福岡県古賀市とは

古賀市は、人口約6万人で、福岡市からJRで約20分ほどの場所にあります。製造業が盛んな町で、工業出荷額は県内9位、特に食品加工業が盛んで県内2位です(2020年3月末時点、以下同)。外国籍住民は約900人で、9年で約3倍になりました。国籍は、中国、ベトナムが多く、在留資格では技能実習生が最も多く全体の約40%です。

その古賀市に国際交流・多文化共生係が設置されたのは、2020年4月のことです。福岡県内において、政令指定都市以外で、多文化共生を専門にした部署を持つ市町村はほとんどない状況です。その国際交流・多文化共生係の最初の係長に就任したのが渋田典子さんです。

企業ヒアリングで気づいたこと

国際交流・多文化共生係と私たちは、文化庁委託事業「生活者としての外国人」のための日本語教育事業(以下、文化庁事業)の一環として、2020年8月から11月まで、古賀市内に1日2時間、計30回の日本語教室を設置することにしました。設置にあたり、渋田さんらは、現場の声を聞こうと技能実習生を雇用している企業や外国籍住民が多い自治会などにヒアリングに行きました。その結果、次のことが分かりました。

表1:ヒアリングから分かったこと(一例)

日本人が思っていること

技能実習生が思っていること

・英語が話せないので困る

・接し方が分からない

・ごみ出し習慣が守られていない

・生活習慣が違うので困る

・技能実習生は日本語勉強を希望していない

・技能実習生の頑張りが励みになる

・日本人と話したい

・日本人と交流したい

・日本文化や習慣について学びたい

・日本語の勉強をしたい

渋田さんは、このヒアリング結果から、技能実習生として暮らしている人たちと日本人の間にある差に気づきました。それは次のことです。

・技能実習生は日本人と交流したいと思っているのに日本人は接し方が分からないと敬遠している

・技能実習生は日本語を勉強したいと思っているのに日本人は技能実習生が日本語を勉強したいと思っていると考えていない

このような気づきを抱えながら、日本語教室の設置が始まりました。

職員も参加した日本語教室

日本語教室は「楽しい日本語」という名前で、週2回、水曜日と土曜日に開催されました。外国籍住民の参加者は、実数で32名、国籍は、ベトナム、インドネシア、フィリピン、中国の4カ国です。32名は、ほとんどが技能実習生で、所属企業は7社になります。内容は、日常生活に根ざしたもので、次がその一部です。

表2:「楽しい日本語」の内容の一部

テーマ

内容

食べ物を買う

自分の食べたいものを表現したり、食べたいものが売っている場所を調べたりした。

災害に備える

災害時に持って行くものについて考えたり、近くの避難所を調べたりした。

ふるさとを紹介する

自分のふるさとについて、どんな場所か、どんなところが特に好きかなど紹介した。

「楽しい日本語」では、日本語教師としての資格を持っている人も持っていない人も全員が外国籍住民のパートナーとして、教室活動に臨みました。「パートナー」には、「教える―教えられる」「支援する―支援される」ではなく対等な関係性を持つ、という意味が込められています。「楽しい日本語」では、「災害に備える」のとき、古賀市の総務課危機管理係の職員がパートナーとして参加しました。行ったことは、「マイ・タイム・ライン」の作成です。ちょうどそのとき、大きな台風が一つ福岡に来たのですが、台風が来る前々日、前日、当日、何をしたのかを振り返り、どう行動すべきかを考えました。参加した職員の方からは、「やりがいのある仕事でした。機会があれば、ぜひもう一度、行いたい」などの感想が届きました。

日本語教室のコンセプトづくり

2020年11月に文化庁事業の「楽しい日本語」が終了した後、古賀市は、日本語教室の運営に継続的に取り組むために、福岡県日本語教育環境整備事業(以下、福岡県事業)に応募し、採択されました。福岡県事業として、古賀市が最初に取り組んだのは、日本語教室のコンセプトづくりです。2020年12月22日、15名が参加したワークショップが開催されました。講師は、私が務めました。内容は、「生活者としての外国人のための日本語教室とは?」について、みなで話し合いながら考えるものでした。最終的に、古賀市の日本語教室に携わる人達で話し合いなら、教室の名前、教室の役割を決めました。その結果が次です。

◆教室の名前:つながる!みんなで楽しい日本語

◆教室の役割:【マインド】仲間と一緒に楽しく過ごせる場所
       【生活者】地域に密着し文化に触れ、情報を得て豊かに生活できる場所
       【スキル】自分の思いを日本語で表現できるよう、楽しく学ぶ場所

このようにまとめられる前には、教室で大切にしたい考え方として、次のような意見が参加者から出されました。

◆教室で大切にしたい考え方(一例)

 ・困ったときに頼れる心の拠り所
 ・人の想いに寄り添い、どうずれば解決できるかみんなで考える
 ・異文化交流を通じてお互いの理解を深め、ともに成長していく
 ・私らしく生活できるための学び場
 ・その人が何を望んでいるかを常に考える

渋田さんは、この教室のコンセプトづくりを通して、日本語教室をつくる上で大切なことに気づきました。

日本語教室づくりに参画して気づいたこと

渋田さんが気づいたことは、次です。

外国から来た人たちは、来日前は不安の中にも期待が大きい。でも、日本に来て、いろいろな問題や悩みにぶつかる。それは、国では当たり前にあった日常生活の喪失、と言える。当たり前にあった地面が陥没し、穴ぼこに落ちたような感じ。そんなとき、パートナーは、穴ぼこに落っこちた一人ひとりのところまで降りていき、隣に座り、その人のことばに耳を傾ける必要がある。パートナーが、相手のことを知りたいと聴く姿勢を持つことで、最初は上手く伝えられないと思っていた人も、少しずつ自分の希望、困っていることを伝えられるようになり、次第に、日常生活を取り戻せるのではないか。

だからパートナーには、何よりも相手のことを聴くことが求められ、その人がどんなことを思い、どんなことに困り、どんなことを実現したいかに寄り添う姿勢が必要であると、渋田さんは考えるようになりました。

今、古賀市は、毎週水曜日19時から20時30分まで、「つながる!みんなで楽しい日本語」を開催しています。また、外国籍住民が安心して、楽しく生活できるように多言語生活情報リーフレット「こがとも」も作成しました。さらに、2021年度は古賀市多文化共生推進協議会を立ち上げ、地域の様々な関係者と共に多文化共生施策を考え始めました。2020年4月より始まった渋田さんらの取り組みは、今、大きなうねりになろうとしています。

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。大学で歴史学と経済学、大学院で感性学を学ぶ。珈琲屋で働きながら独学で日本語教育能力検定試験に合格し日本語教師に。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)深江新太郎 著

https://www.alc.co.jp/entry/7021030

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