名古屋YMCA日本語学院では、「日本語ボランティアチューター」の制度を作り、活動を続けています。学校の中で、「日本語ボランティアチューター」はどんな役割を担っているのでしょうか。どんな活動を行っているのでしょうか。名古屋YMCA日本語学院主任教員、歌詠む日本語教師、惟任先生のコラムです。
外国の人と知り合ひ標識を見る目が変わつたと言ふ人も
わたしの勤務する日本語学校では、「日本語ボランティアチューター」の制度をとり、活動を進めています。この活動はぜひ、ほかの日本語学校にもおすすめしたいのですが、みなさんは「日本語ボタンティアチューター」と聞いてどんな役割の人を思い浮かべますか。日本語ボランティアチューターの活動内容や役割について、QAでご紹介したいと思います。
Q:日本語ボランティアチューターってどんなことをする人?
A:日本語ボランティアチューターとは、日本語学校で学習者とおしゃべりをするボランティアのことです。この活動は1987年に始められましたが、当時の担当者によると、その趣旨は、
- 学校の入った建物の1階(入口)と3階(学校)に急に増えた外国人が何をしている人たちなのかを、近隣で働く人に知ってほしい
- 当時よく言われていた「国際化」について、一般の人にもコミュニティーの問題、自分の問題として一緒に考えてもらうきっかけにしたい
- 学習者に教室内の日本語とは異なる日常的に使われる日本語に接してもらいたい
ということだったそうです。日本語の授業に入るボランティアとの違いについては、授業が1回完結型で、人間関係を構築するまでに至らないのに対し、チューター活動は継続することにより、人間関係を構築することができる点が挙げられます。また、日本語を教えることはせず、ただおしゃべりをするだけだという点も授業とは違うと思います。
Q:どんな人がチューターをしていますか?
A:やはり外国の人と交流したいという人が多いですが、中には、自分が外国で生活していたときにいろいろな人にお世話になったから、今度は自分が恩返しをしたいという人(意外に多いです)や、日本語教師養成講座に通っているからという人もいます。また、今までボランティアはしたことがなくて不安だったけど、日本語でのおしゃべりだけでいいなら自分にもできるかもと思って始めたという人もいます。年齢層は幅広く、高校生から80代の方までさまざまですが、60代以上の方が全体的にやや多いです。
Q:具体的な活動内容は?
A:活動は1週間に1回、1時間程度、毎回同じ相手と1対1や2対2などで行い、半年以上活動してもらうことになっています。半年も同じ相手となると、ちょっと長いのではと思う人もいるかもしれませんが、お互いのことを知り、良好な関係を築くためには、ある程度の時間が必要なのではないかと思います。話題については、この1週間の出来事や、趣味、勉強のことが多いようです。また、家族や生活のこととか、恋愛に関する悩みとか、教員には相談しないような個人的なことをチューターに相談している学習者もいて、チューターのことを「日本のお母さん」と言って慕っている学習者もいます。ほかにも、活動終了後に食事に行ったり、休みの日に一緒に遊びに行ったりすることもあるようですし、帰国後もチューターとの連絡を欠かさず、自分の結婚式にチューターを招待した学習者もいました。
Q:どんなところに活動の効果が出ていますか?
A:上にも述べたように、チューターは学習者の日本での留学生活を精神的な面で支えてくれる貴重な存在であるといえます。もしかすると、チューター活動の場が学習者にとって慣れない異国での生活や勉強の愚痴や、進学に対する不安などを日本人に聞いてもらえるストレス解消の場にもなっているかもしれません。また、もちろんこの活動は学習者の話す力を向上させることにもつながっていますし、1時間も日本語だけで日本人とのやり取りができたことが学習者の大きな自信にもつながっているようです。先日も学習者から、チューターといっしょに帰る道すがら、30分以上も会話を途切れさせずに続けられてよかったということを聞き、うれしくなりました。
Q:チューターの側の声を教えてください
A:ある高校生のチューターの話です。彼女は韓国の学習者とペアになったのですが、学習者のことを「お姉ちゃんよりちょっと上で新任の先生みたいな感じ」と表現していました。そして、アメリカでの生活経験もあるその学習者から、韓国やアメリカに関する話や、日本人の自分が気づかないような思いがけないことを聞くことができて、自分の視野が広がったと言っていました。さらに、普段の生活でも外国人の視点で考えることが増え、特に道路標識がわかりにくいことに気づいたとのことでした。また、ほかのチューターからも「コンビニで働く外国人に対する印象が変わった」「留学生の出身地域に関するニュースに目が向くようになった」「留学生のがんばる姿に刺激を受け、元気をもらった」といった声をいただいています。
このように、学習者と日本人の双方にとって楽しく、新たな気づきのある日本語ボランティアチューター活動、ぜひみなさんの学校でも始めてみませんか。
おしやべりに咲く花いつかその花が地球を覆ふことを願はむ
執筆/惟任将彦(これとう・まさひこ)
名古屋YMCA日本語学院主任教員。兵庫県出身。高校までは体育会系だったが、大学から文化会系に転向、短歌を始める。大学卒業後に働きながら日本語教師養成講座に通い始め、1999年から2001年までネパールで日本語を教える。帰国後は主に大阪YMCA学院で教え、2017年10月より現職。日本語教育に関する主な著書に『ネパールで学ぶ日本語Vol.1~Vol.4』(共著、自費出版)、『テーマ別中級から学ぶ日本語三訂版ワークブック』『テーマ別上級で学ぶ日本語三訂版ワークブック』(いずれも共著、研究社)などが、歌集に『灰色の図書館』(書肆侃侃房)がある。
好きなものカレー音楽古書麦酒名鑑を手に野球観戦
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