江別市に増えたパキスタンの人達
―― 前回は、シンポジウムに登壇する浦河町と江別市のうち、浦河町についておうかがいしました。今回は、もう一つの江別市について、聞かせていただけますか。
江別市は、パキスタン国籍の方が多い地域です。江別市近郊に、大きな車のオークション会場がある関係で、中古車販売事業を行うパキスタンの人達が移り住んできました。在留資格は、経営管理の人が多いです。社長ですね。このビザだと、出身国の家族と従業員を呼び寄せられるんです。その関係で、パキスタンの人がめちゃくちゃ増えて。江別市は札幌の隣の人口11万人ぐらいのそこそこ大きい街なんですけど、この10月にパキスタンの人が国籍別でトップになったんですよ。
―― ええ? そんなにですか。
はい。そして江別市のパキスタンの人たちは、浦河町と違って、日本人に雇用されていません。彼らは、郊外にヤードっていう中古車を置いている場所を買って、そこを拠点に事業を行い、生活をしています。ただ、郊外なので、あまり日本人に知られていないんです。彼らは子どもも連れて来ているので、小学校に全然、日本語が分からない生徒が通い始めています。でも、現時点で自治体の対策はほとんど取られていない状況です。
ブルーカラーの人たちがつくるコミュニティ
―― 江別市には日本語教室がありますか。
江別市は札幌に近い大きな町なので、1990年代から有志市民による国際交流推進協議会があって、2018年から日本語教室も行っています。最初は技能実習生を多く受け入れている企業と合同で行っていましたが、2020年から市のすべての方を対象とした教室に変わりました。江別市には4つ大学があるから、これまで勉強を続ける人は留学生が多かったんです。
ただ、このようにパキスタンの人が増えてきて、10代後半のパキスタンの人が教室に来た時に、どうやって対応したらいいか分からないということが起きました。みんなで一生懸命彼らに合わせた教室の形を作ったんですが、結局、そういう人たちはほとんど来なくなってしまいました。今、私も試行錯誤しながら、行っています。
―― パキスタンの家族帯同で来た女性の人たちは教室に来ているんですか。
来ていません。厳しいムスリムなので。女性は他の男性がいる可能性がある場所には一人では行くことができないんです。家の隣に教室があっても参加できていません。
―― そうなんですね。
コミュニティということを考えたとき、例えば札幌にいるホワイトカラーで家族帯同をしているムスリムがつくるコミュニティと、江別市でブルーカラーの人たちがつくるコミュニティはものすごく違うと感じています。札幌のモスクは日本人向けの交流イベントもすごくやっているし、もちろん女性も外に出ているし、彼女たち自身がたくさん教育を受けていて子どもたちの教育に対しても熱心です。
江別市では、出身国の慣習や文化がそのまま日本に持ち込まれていて、コミュニティがつくられているという印象です。そのコミュニティのほとんどの人が日本語も英語もできなくても、その中の一人の人が日本語ができたら、その人がみんなを助けるから、みんなは日本語を勉強する必要がないという感じになってます。その日本語ができるという人が子どもであることが多いです。その子どもはヤングケアラーみたいになっていて、コミュニティの誰かが病気したら、学校を休んで通訳をするということが起きています。
幸せなファーストコンタクトが必要
―― 江別市では日本語教室は開かれているけれど、本当に来て欲しい人たちに教室が届ききっていないという状況になっているのですね。
そうですね。パキスタンの男性たちも、来てもすぐ来なくなったりしています。教室があるからといって、それが機能しているとは言い切れない状況です。
―― 来なくなるのは何か理由あるのですか。
知りたいです(笑)
―― もはや必要なのは日本語教室じゃないのかもしれませんね。
はい。実は江別市に注目が集まったとき、市民の一部の方から、否定的なコメントがSNSに掲載されたんです。このことから、私は市民の人たちは3つの層に分けられるんじゃないかと考えるようになりました。多文化共生に賛成の人たち、どっちでもない人たち、反対の人たちです。私たちのような日本語教育の関係者は、どうやったって多文化共生に賛成ですよね。でも、どっちでもない人たちは、SNSのコメントを見たら、やっぱり怖いんだってなってしまいます。だから、私は幸せなファーストコンタクトが起きる機会をつくりたいと思っています。
例えば、パキスタンの人たちがやっているハラールレストランでアンモナイトアカデミーというのをしていて、毎回、違うパキスタンの人が講師となって江別での生活や仕事について話をしてもらっています。このような機会が教室と並行してあれば、市民と接触する機会が生まれるのではないかと思います。そうすれば、SNSの否定的なコメントを見ても、「あぁ、それってハサンさんのことでしょ」と言えて、そのコメントに流されることはなく、地域としてのレジリエンスも高まるんじゃないかなと思います。
むすび
「コミュニティがあるということは、日本人と接触しなくても日本語を勉強しなくても生きていけるということだと思います」と平田さんは続けました。けれど、その状態を良しとすれば、日本人住民との断絶が生まれます。なので、「私たちがどういうふうに関わっていき、相手も関わってもらうか」が大切だと平田さんはむすんでくれました。この問いかけへの糸口を、みなさんといっしょにシンポジウムで考えていきたいと思います。
関連ニュース
パキスタン人急増の江別市~市民が取り組む交流への第一歩
https://www.nhk.or.jp/hokkaido/lreport/articles/300/203/59/
▼第4回北海道地域日本語教育シンポジウム 北海道 ナゼここに? 新しいコミュニティ
●開催日:2025年1月25日(土)13:00-16:30
●参加無料
●オンンライン配信会場
札幌/キャリアバンク株式会社
●サテライト"対面"会場
・江別/市民交流施設ぷらっと [参加団体:江別国際センター]
・北見/北見工業大学 [参加団体:北見工業大学+いろはの会]
・帯広/JICA北海道センター(帯広) [参加団体:JICA北海道センター(帯広)]
・旭川/旭川市民国際交流センター フィール旭川7階 [参加団体:旭川JICAデスク]
●お申込み:https://forms.gle/GUCh9nicJCYY4FkCA
●詳細:https://shakehokkaido.studio.site/Y1xPp5V0/symposium04
プロフィール
平田 未季(ひらた みき):北海道大学准教授。協力隊でシリア・イエメンで日本語教育にかかわったのち、秋田大学を経て現職。大学で日本語教育を行うかたわら、SHAKE★HOKKAIDOを主宰し、北海道で日本語学習支援および共生支援に関わる人たちをゆるやかにつなぐ活動を行うとともに、演劇の手法を用いた共生のまちづくりワークショップに取り組む。
執筆
深江 新太郎(ふかえ しんたろう):「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文部科学省委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。
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